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第31話
――眩しい。目を開けると、見覚えのある天井が視界に広がる。ぼんやりした頭のまま、京介は当たりを見回した。六畳ほどの部屋に、仮眠用の布団。そして。
「おー、起きたか。救急の眠り王子」
「三橋……?」
「そっか、今は法医だっけ。久しぶり、近江谷」
傍らでスマホをいじっていたのは、京介の同期の三橋だった。学部生の時から何かと一緒で、国試勉強も初期研修も共にやってきたいわゆる腐れ縁だ。アイドルばりの整った顔面が一段と眩しく見える。
「当直室だよね……ここ」
「正解ー。解剖中に倒れたって?相変わらず不摂生してんね」
「お恥ずかしい限りで……」
研修医時代に幾度となくやったやりとりをしながら、京介は布団から身体を起こした。平衡感覚が狂っている感じはあるけれど、さっきよりはずっとマシだ。
「念のため、って連れてこられたみたいだけど大丈夫そうだね。前みたいにお兄さんには連絡しといたけど、お節介だった?」
「や、助かる。色々ごめん」
「いやいや、こっちこそ連勤の息抜きにさせてもらったわ」
「……何日帰ってないんだよ、三橋もちゃんと休まないと」
「あはは。お前に言われたかねぇわ」
三橋は激務を抱えているとは思えない、清々しい顔で笑った。そうして立ち上がって、ぐっと伸びをする。
「さて、僕は仕事に戻るとしますか。眠り王子も起きたことだし」
「それやめろって……、今度何かおごるから」
「楽しみにしとくわ。じゃ、またねー」
ひらりと手を振って、三橋は当直室を出て行った。急に静かになった室内で、京介はまた布団へ身を沈める。英介のところに連絡が行っているのであれば、そろそろ迎えに来るだろう。
(いや、本当にやらかしたな……)
あの親子のことも、本気で考えていたのなら黙っているべきではなかったのだ。行動していないのに勝手に落ち込むなど、ただの身勝手というもの。それに加えて自分の感情までこじらせて体調を崩して盛大な迷惑をかけるなど。
今日のことは一生引きずることになるだろう。苦い経験を戒めに、一生かかっても消化できない罪悪感のようなものを抱えて。
「……はは、」
京介は自嘲を込めて笑った。これから色々、整理できるところからしなければなるまい。今日は休ませてもらって、落ち着いたら彩花堂に行って話をしよう。話したところで紘人と陽菜についての感情をきちんとしまえないかもしれないけれど、話さないと何も変わらない。
ひとつ頷いたところで、扉をノックする音が響いた。
「はい、開いてます」
英介が来たのか、それとも他の当直医だろうか。京介は布団から上体を起こして返事をする。すぐに、かちゃ、と扉が開いた。
「……えっ?」
そこにいる人物を認識した瞬間、京介の口から間の抜けた声がこぼれる。
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