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第33話
なんとか他人と接触せずに到着した職員用駐車場。来客用のプレートがかかった一角に、あまりにも場違いな『彩花堂』の配達車が停まっている。もう大丈夫だと散々言ったのに、紘人が最初に京介のことを下ろしてくれたのは助手席のシートの上だった。そのまま紘人も運転席へ座ってくる。
ほのかに和菓子の甘い匂いがする車内。触れそうな距離にいる紘人。週の半分を彩花堂に――、紘人の家に訪れていたことを思い起こさせる。
「送ってくよ。家、どこ?」
紘人がカーナビを操作しながら訊いてくる。変わらない優しい声に、心のざわめきが凪いでゆく。素直に自宅マンションの場所を指差せば、紘人は驚きの声を上げた。
「本当に近所じゃん!」
「……なんで嘘吐いてると思ったの」
「こんなに近いなら、遅くなってもごはん食べに寄ってくれたら良かったのに」
「それは……」
ここ二か月ほどの空白期間のことを指しているのだ、と京介は悟る。自分でも言い訳が厳しいと思っていたのだ、紘人が勘付いていないわけがないだろう。返す言葉に詰まっていると、紘人はぽつりと言葉をもらした。
「俺、なんか嫌われるようなこと、言っちゃったかな?」
「そんなことない!」
反射的に叫んで、京介ははっと口を閉じた、じわじわと恥ずかしさが全身を襲ってくる。紘人は一瞬きょとんとして、すぐに笑顔を浮かべた。
「良かった。それが聞けただけでも、救われた気分」
「……大げさだよ」
「大げさじゃないよ。……そうだ、先生」
紘人は一瞬下を向いて、すぐに京介の方を見据えた。さっきの笑顔から一転して真剣な瞳に、京介はどきりとする。
「ちょっと、時間もらえるかな?……話したいことと、話さなきゃいけないことがあるんだ」
「……紘人さんのお父さんのこと?」
他にもあるだろうに、真っ先に浮かんだのが以前から抱えている疑問。紘人は無言で頷いて、車を発進させた。
「……つまらない話だよ?」
自嘲気味な紘人の言葉が、車の中に溶ける。京介はただ一言、お願いします、とだけ呟いた。
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