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第6話
泣いているようだった。
密やかなすすり泣きで、その切なげな響きが悟の感情にシンクロして、悟も胸が詰まった。
そっと近づいて行くと、茂みの陰に置かれたベンチに細身の青年が座っていた。黒いペットボトルを両手で握り、うつむいて涙をぽたぽたこぼしていた。
「なあ…」
悟が声をかけたことに驚いて、青年は慌てて立ち上がった拍子にペットボトルを大きく振った。中から飛び出した真っ黒い液体が、青年の方に差し出していた悟の細いストライプの入った明るめのグレイのスーツの袖を、派手に汚した。
悟は街のメンズブティックで、結婚式場で着ていたスーツよりだいぶカジュアルなブレザーとチノパンを購入し、その場で着替えた。奇跡的にカッターシャツには目立つ汚れはなかった。汚れたスーツは、見るとムカつくだけなので処分してもらうよう店に頼み、外したネクタイを内ポケットにねじ込んで、店を出た。
悟の後ろをついて店を出た青年が、申し訳無さそうにおずおずと声をかけた。
「スーツ、弁償させて下さい」
悟は自分より頭ひとつ背の低い、儚げな青年を見てふんと鼻を鳴らした。
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