7 / 24
第7話
ベンチで悟に掛かった液体は、墨汁だった。
パニックになって謝る青年をなだめているうちに、彼に見覚えがあることに気づいた。
「君、見たことあるけど、何で?」
スーツを汚したことで青くなっていた青年は、悟に問われて青を通り越して白くなった。
「郵便の配達員です」
消え入るような声で言う青年をまじまじと見つめ、悟は思い出した。
「ああ、うちに配達に来る!」
いつもは配達員の制服を着ているが、今日はVネックの黒いカットソーに黒いジーンズを履いて、仕事中は上げている前髪も下ろしているのでかなり印象は違うが、間違いなく悟のマンションに配達に来る郵便局員だった。
イヤな予感しかしないが、聞いてみた。
「ここで、こんなもん持って、泣いているのは、なぜ?」
青年は再び涙をこぼし、うつむいた。
悟は怒りのあまり、目の前が赤くなった。
「あのバカやろう!彼女だけに飽き足らず、男とも浮気してやがったのか‼︎」
ともだちにシェアしよう!