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第12話

「あ、あれ」 史彦が指差した。 「あの電波塔のあるテレビ局、僕のアパート、あの側なんです」 歩いて帰るには少し遠いな、帰りはタクシー代を渡さないと、俺の方が年上っぽいし、などと、電波塔のチカチカと赤い光が点滅しているのを見ながら、とりとめもなく考えていると、隣ですすり泣きが聞こえてきた。 タバコを一本吸い終わるまで、悟は黙って泣かせていた。 携帯灰皿に吸い殻を押し込んでいると、史彦がこちらを向き、長い睫毛に涙の粒を絡ませて、痛々しくも可愛らしい笑顔を見せた。 「なんか、甘えてすみません。僕、やっぱりかえります」 そう言う顎を捉えると、悟は史彦の唇を自分の唇で覆うようにキスをした。 突然のことに史彦は驚いていたが、悟が舌で歯を撫でるとそろそろと口を開けた。 史彦の舌に自分の舌を絡ませて、長く深く口の中を刺激した。史彦の舌に絡みついた唾液をくるりとなめとり唇を離すと、史彦は大きくため息をついた。 膝から崩れそうになったので、悟は腕を回し支えてやった。 「き、桐谷さん?」 「ひとりで寂しい思いをすることないだろ。俺たちだって楽しんでいいはずだ」 そう言って史彦の耳に軽く歯を立てると、悟にしがみついて来た。

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