月曜日、会社に行くと掲示板の前で社員たちがワイワイ言っていた。 悟が近づいて行くと、悟に気付いた女子社員が気まずそうな顔をした。 「何？」 昨日、引き出物を持ってきてくれた後輩が悟の方を向くと、不満そうに掲示板の辞令を指差した。 「 このポスト、桐谷さんと西野さんが争っていたやつですよね」 悟の会社はアメリカに本社のある機械メーカーだ。 この夏、日本支社から若手社員を１人本社へ異動させることになり、若手のホープである悟と友喜どちらかが行くだろうと社内で噂されていた。２人ともアメリカで仕事することを希望していたし、本社にも出張で何度も訪れ、あちらにもそれぞれの優秀さは折り込み済みだ。 どちらを選ぶか、上は悩んでいるだろうが、同僚たちは、軽薄なところのある友喜より真面目で人望の厚い悟が選ばれるだろうと予想していた。 「西野さんが選ばれるとか、絶対奥さんのおかげじゃないですか」 部屋に戻っても後輩はまだぷりぷりと文句を言っていた。 「さすがにそれだけじゃないだろ。西野が俺たち若手の中で一番出来るやつってのは事実だし、結婚したから信頼度もあがったんだろ。もうアメリカで羽目をはずすことも出来なくなっただろうし」 そう言って自席につき、ＰＣを立ち上げた。同僚たちの前では平静を保っていたが、悟は怒っていた。 アメリカに行くと決まったのがいつかは知らないが、史彦に結婚してからも付き合おうと言っていたくせに、アメリカに行ってどう付き合うというのか。自分が日本にたまの出張で帰ってくるのを待たせているつもりなのか。 友喜のいい加減さに怒り、イライラとキーボードを操作している悟を、周囲の社員は強がりを言ってもやっぱり、と哀れみを込めて見つめていた。