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第十四話

「陛下、そんなに見つめられたら診察ができません」 「おまえは見過ぎだ。さっさと着衣を戻して、終われ」 「そんな無茶な。くれぐれも御身お大切にと申し上げましたが行き過ぎですよ。リル様、本を持ってあがりましたので、ここに置きますね。わからないことがございましたらいつでも私を呼んでくださいませ」  アーミルはリルにだけ柔らかにほほ笑み、頭を撫でようとするとガーレフがその手を払った。 「終わったのなら帰れ」 「……まったく手の返しようがひどい。べったりリル様に匂いをつけていたくせに素直になれない猫じゃないですか。リル様、本に言付けをいれました。あとで御覧ください」  ふうと諦めたようにため息を洩らし、アーミルは叩かれた手を振り、これ見よがしにリルに顔を近づけた。 「は、はい……」 「うるさい。それ以上話したら出禁にするぞ」 「医者の僕が出禁ですか……。まあいいですけど、困るのはリル様ですよ」 「……うっ」 「今日のところはこれで失礼いたします」  苦虫を嚙み潰したような顔になるガーレフに満足したのか、アーミルはリルに笑んで部屋を出た。リルは本を開き、挟んであった手紙を見つける。 『ハルンを許しやっておくれ。彼は僕のために動いただけに過ぎない。厳しい処分を僕から下したが、君の心配ばかりしている。ずいぶんと気に病んでいたよ。それと、白虎陛下は反省を見せているようだけど、まだまだ許してはいけないよ。陛下は君の引っ越しの許可印を押さないんだ』  最後に怒った猫のようなものが描かれていた。  ヴィルいわく、アーミルがガーレフに初めて憤然と色をなして怒鳴ったらしい。薬の研究開発費を餌にハルンを脅していたようだ。さらに、番いとしての役目も放棄していたことがわかり、アーミルは烈火のように激した。宮廷から出された薬のせいで、リルの内蔵はボロボロになっていたからだ。 「手紙がうれしいか」  ガーレフはぼそりと呟いた。手紙におかしそうに肩を揺すって笑うリルに苛立っている。 「え……、あ、そうですね。でもハルンが心配です。一度会わせていただけないでしょうか」 「わかった。アーミルに伝える。さ、朝食をとるぞ」 「は、はい……」  ガーレフは短く頷き、呼び鈴を鳴らした。すぐにチサンが盆を持ってきた。 「……」 「…………」  短い沈黙が漂う。粥がゆるい湯気を立て、果物が皿にのっている盆が目の前に用意された。硬い表情で碗を手にとり、ガーレフがリルに話しかけた。 「……ずいぶんと仲がいいな」 「アーミル様と手紙のやり取りをしております」 「そうか。……食べろ」  不満げに口を歪め、ガーレフは銀のスプーンで粥をすくってリルの唇をつついた。 「あ、あの自分で食べれますので……」 「いやか?」 「そうじゃなくて……、手は自由に使えますから」 「不満か。私が看病しているんだ。黙って従え」  銀のスプーンをさらに口許によせる。熱々の粥が湯気を立てて、唇に触れるとリルは体を後ろへ反らした。 「……つっ」 「わるい。冷ましてからやるべきだったな」 「いや。……その」  途端に慌てるガーレフを前にどうしていいのか、どんな言葉をかけていいのかリルは困惑の色を浮かべている。  ガーレフは一日中そばで見張っているかのように世話を焼いてくる。公務はどうしているんだろうとヴィルに尋ねると、休暇をとったらしく宰相が代理を務めているようだ。 「ほら食べろ」 「……は、はい」 「おいしいか」 「え、ええ。ありがとうございます」  まごつきながらもすべて食べたのを確認し、空になった皿をガーレフは満足したように脇に置いた。昨日までしとしとと綿のように柔らかい雨が止んでいた。外は百花が咲き溢れ、蝶が優雅に飛び回っている。 「それと、出したくなったらいえ」  じっと横にある筒の瓶を見つめた。 「……それは。いや、です」 「だめだ」

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