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EP.10

 眠ることができず、暗くなった部屋のベッドの上で海はコロコロと転がっていた。  枕もベッドも、全てから泉帆の匂いがする。布団を被ってしまうと全身が包まれてしまうから、興奮して眠るどころではない。  ベッドの横を覗き込むと、泉帆は硬い床の上だというのに爆睡していた。流石に真夏に冬用布団は暑かったのだろうか大きく捲られ、汗をかいた腹も見えてしまっている。  手を出したくて堪らない。優男の顔に似合わず割れて引き締まった腹筋を見ながら思わずごくりと生唾を飲む。駄目だと首を振り、左手の小指に嵌めたままの指輪に視線を移した。  これがあるだけでいい。泉帆がアクセサリーを作るのが趣味なんて知らなかったが、最高のものを貰えた。ネックレストップをくれる予定だったのだろうと理解していながらもダメ元で頼んだのがよかった。  世界に一つだけの、泉帆の作った指輪。大好きな人が作った指輪なんて、宝物になるに決まってる。  海はそれに唇を触れ合わせ、興奮を宥める。泉帆とはどうにもならない。だから、絶対に手を出してはいけない。  ふと、突然泉帆が起き上がった。トイレにでも起きたのだろうか、横になり指輪に何度も唇を触れ合わせていた海も起き、その様子を眺める。 「くろちゃん、起きたの?」 「……暑い」  あまり寝起きは良くないようだ。いつもより大分声も機嫌も低い。  泉帆はベッドに乗り上げるとヘッドボードに置いたリモコンを手にして設定温度を下げる。今だって少し肌寒いのに、もっと下げてしまうなんて。  あとでこっそり上げておこうかと思っていた矢先、泉帆は海のすぐ隣に寝転がった。 「えっ、待ってくろちゃん」 「遅いから、早く寝なさい」  そんなの、眠れるわけがない。  泉帆はまるで小さい子にするようにポンポンと脇腹に触れてくる。  好きな人と、同じベッドに横になっている。これまでは我慢してきたのに、興奮が止まらない。  泉帆とは、何もするつもりはないのに。1番にはなりたくないから、仲のいい友人レベルで抑えていたかったのに。  海は、寝惚けている泉帆の手を掴む。 「ねえ、ちゅーしていい……?」 「んん……?」 「ちゅーだけ。おれ、ちゅーされなきゃ寝れないの」  そんなの当然の嘘だ。最後にキスしたのは高2の頃が最後で、好きな人としかしたことがない。  瞼も開かない程寝惚けている泉帆の頰に触れ、かぷりと下唇を食み触れ合わせる。  これだけだから。寝惚けている泉帆相手だから、少しなら許されると思った。  出会ってから3ヶ月と少し。好きを拗らせた海はもっとしたくなってしまうとすぐに唇を離す。視線の先にある唇は、海の唾液で光り艶めいて見えた。  薄らとだけ瞼を開けた泉帆は、海に手を伸ばした。手は背中に回り、抱き締められるような体勢になりながら頭を撫でられる。  パニックに陥ってしまった海の耳許で、低い声が響いた。 「しちゃだぁめ。おやすみ」 「くろちゃん、待って。おれこれじゃ寝れない」  心臓が爆発してしまいそう。ただでさえキスをしてしまったから耳まで顔が熱いのに、こんな至近距離は本当に死んでしまう。  泉帆は抱き締めた状態のままになんで、と問いかけてきた。海はきゅうと大柄な自分の体を縮こませ、意識が覚醒した時には覚えていないことを願いながら小さく呟く。 「ほんとに、くろちゃんのこと好きだから。好き過ぎて他にもいっぱいしたくなっちゃう。だからぎゅってしないで、お願い……」  興奮していることがありありと伝わってしまうから、身体は密着させないように。海は押し戻そうと必死になる。  泉帆は、海を益々強く抱き締めた。 「かわいい」  駄目なのに。海は肺いっぱいに泉帆の匂いを吸い込んでしまう。  理性が焼き切れていく。優しくて、かっこいい泉帆のことが好きで好きで、どうしようもなくなってしまう。  益々顔が近くなったから、少しだけなら。瞼を閉じたままの泉帆にもう一度キスを落とす。唇を食み、口腔で唾液を混じり合わせるような深いキス。海は興奮で、鼻から抜けるような嬌声を上げてしまった。 「ん、ん……」  男の身体は興奮度合いをわかりやすく伝えてしまう。それは、泉帆も同じ。自分の腰は密着させないようにと膝を曲げ逃げていた海は、自身の膝にそれが触れたのを感じた。  大好きな泉帆が自分とのキスで気持ち良くなってくれた。絶対に深い関係にはならないと決めていたのに、今まで散々名前も知らない男達に抱かれ続けていた体は勝手に動いてしまう。  流石にキスで呼吸が苦しくなったからか、刺激が与えられたからか。泉帆は起きてしまった。それでももう止められない。  抱き締められたまま体を密着させ、海は膝でグリグリと泉帆のそれを刺激しつつ、混乱している様子の泉帆の唇の端にくちづけた。 「くろちゃんのえっち」  触れるだけのキスで良かったのに、抱き締めて、頭を撫でて可愛いなんて言われて。我慢なんてできなくなってしまうに決まってる。  付き合うことはないし、大切な人にはしないでほしい。だから、身体の関係だけなら。海は手を伸ばし、膝で触れていたそれを布の上から握り込んだ。 「目隠ししてていいよ。抜いてあげる」 「だめだ、うみくん」  正気に戻った泉帆が止めようとしてくる。今更、やめられるはずもないのに。

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