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EP.11
抱き締めていた腕が離れても、今更止められない。
身体だけなんて真面目でお堅い泉帆は納得しそうにはないけれど、一度の過ちならなかったことにしてくれるかもしれない。
この1回だけ。明日からはまた変わらない関係性で。
海は、泉帆の欲望を撫でながら枕で泉帆の顔を隠した。
「もう喋らないから、顔隠して女の子にしてもらってるって思ってて」
「海くん、駄目だって」
「その気にさせておいて、今更駄目なんて言われても止められないよ。大学生の性欲舐めないでほしいな。それとも、初めては女の子としたかった?」
「……それは」
「……図星だったんだ、ふぅん」
この身体には、まだ誰も触れていない。
そんなの、余計に気分が高揚してしまう。
海は自分を止めるために上体を起こした泉帆が何かを仕掛けてくるよりも先に下衣の中に手を伸ばし、普通なら決して他人が触れることのないそれを直接指先で撫でた。
「こら、駄目だ」
「怒り方、全然怖くないよ。それに、駄目って言われてもやめないから」
硬く張り詰めた欲望を露出させ、指でなぞればひくりと下腹部が反応を示す。海は泉帆の足の間に入り込み、長い指先で泉帆のそれを翻弄した。
これまで他人に触れられたことが一度もないからか、男が相手だというのにそれはすぐに固く芯を持つ。快感に抗う術を持たないのか、泉帆は顔に押しつけられた枕を掴んだまま、必死に息を殺していた。
嗚呼、食べたい。海はその様子を見てから背中を丸め、泉帆の欲望に唇を近付けた。
指を絡め上下に扱くのはやめないまま、先端を舌で舐める。ざらりとした感触に、泉帆は閉じていた瞼を持ち上げ、顎を掴んで海の顔を持ち上げた。
「それは本当に駄目だよ」
「男 とするのが嫌なら目隠ししててってば。ただ座ってるだけでいいよ、おれがしたいの。慣れてるからへーきだよ」
「付き合ってもいない相手に、こんなことしちゃいけない」
やはり、泉帆の言葉は予想通りだ。そんなこと聞いていられない。海は無視して手を振り払うと口腔で咥え込んだ。
同性相手に触れられているのに全く萎えていないそれはこれまで色んな男と遊んできた海から見てもそれなりの大きさで、誰にも相手にされなかったのが勿体ないなんて思ってしまう。好きな相手でも今回きり、喉の奥まで入りきらないそれにしゃぶりつき、舌先で裏筋を舐めあげれば泉帆ももう止める気がなくなったのか寧ろ海の頭を抱え込んできた。
「うみ、くん」
「なぁに?」
「それ、なに?」
「んー?」
それ、とは何だろうか。舌先で先端の窪みをちろちろと刺激していた海が顔を上げると、泉帆はまた手を伸ばしてくる。
止められるのかと思ったがそうではない。泉帆の親指が唇に触れ、爪の腹で舌を持ち上げられた。
海の舌は生まれつき先端が割れている。所謂スプリットタンのようなものだ。蛇のような形のそれを見た泉帆は、不思議そうな表情を浮かべた。
「これ、切ったの?」
「ううん、生まれつき。気持ち悪いでしょ、よく言われるよ」
口淫自体自分の気分が乗っている時にゴム越しでしかやらないが、終わってから感触に違和感があると言われ、見せると気色悪いと言われる。いつものことだ。海がそう口にすれば、泉帆は眉間に皺を寄せた。
「不特定多数の人と、こういうことしてるの?」
「そういう気分の時だけ。大丈夫、おまわりさんに捕まるようなことはしてないよ」
金は貰っていない、ただ適当に見繕ってセックスしているだけ。海は自分の唾液で濡れた泉帆の親指を食み、吸い付いた。
「それとも、気持ちよくえっちしてるだけなのにおれのこと捕まえちゃう?」
「……しないけど、高校生の時からしてた?」
「なぁいしょ。ね、続きしてもいい?」
「……今日だけだよ」
もう何を言っても聞かないと判断されたのだろう。泉帆は諦め、壁に寄りかかる形に移動した。海は拒否されなかった嬉しさに頬を緩ませ、またすぐに顔を埋める。
唇を寄せ、音を立て先端にキスをする。舌の腹で舐め上げ、吸い付いていると泉帆の手が髪を梳き、頭を撫でた。
「さっきの、もう一回してくれる……?」
もう限界なのだろうか、初々しい反応を見せながら泉帆はそう望む。海は割れた舌先で先端を刺激しながら左手のピストンを早め、絶頂まで達させた。
白濁の液体が勢い良く噴出される。顔にかかってしまったそれを拭うこともせず、海はすぐに先端に吸い付いた。ちゅう、と音を立て全てを咥内で受け止めると、何の躊躇いもなく嚥下してしまう。
達したばかりで敏感なそれを舐めて綺麗にすると、起き上がり泉帆の首筋に吸い付き小さく痕を残した。
「きもちよかった?」
「……うん」
「よしよし、初めてだったのによくイけました。じゃあおれトイレ行ってくるね」
自分のこれはトイレで処理する。海が立ち上がりかけると、泉帆はその手を掴み止めてきた。
「してもらってばかりじゃ悪いよ」
「でもくろちゃん、他の人としたことないんでしょ。明日も早いしスッキリしたんだから早く寝ちゃいなよ」
「でも、海くん……」
「おれ、後ろじゃないとイけないからだぁめ。トイレ借りるね」
泉帆の手を振り払い、自分の鞄を持ってトイレに籠る。
もし自室に妹が入った時に見られては困るものは全て持ってきている。鞄の奥底から潤滑剤のボトルと小さいゴム製の玩具があることを確認してから、そこで漸く一息。
やってしまった。もしかしたら明日から変な雰囲気になってしまうかもしれない。本能のままにゴリ押ししてしまったが、泉帆がもし自分をそういう目で見て意識するようになってしまったら。そもそも、あんなレイプに近い形で口淫するなんて、もう会ってくれなくなるかもしれない。それは絶対に避けたかったのに。
抱き締められて、そのまま抱かれたくて堪らなくなってしまって。駄目だという言葉も押し切りあんなこと、達してはくれたけれど引かれているかもしれない。むしろ、引かれないはずがない。
後々のことを考え今更後悔してしまうが、それ以上に、興奮してしまう。
泉帆の初めての相手になった。忘れられることのない、唯一の相手。1番好きじゃなくても、嫌いになっても変わることのない唯一の相手。
興奮に、身体が疼いて止まらない。
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