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EP.27

 抱き締められて、何度もキスされて愛される。  体が大きくなってから、こんなことはされたことがなかった。  もっと愛されたい。気持ち良くなりたい。気持ち良く、してあげたい。  海は泉帆に抱きつき、両足を腰に絡めてしがみついた。 「すき、みずくん、すき」 「俺も、海くんのこと好きだよ」 「もっと好きになって、おれだけ見て」  もう、自分以外の人なんて見ないでほしい。一生愛してほしい。  海が半ば戯言(うわごと)のように何度も乞えば、泉帆は何も言わずに抱きしめる腕に力が入る。  違う。行動じゃなくて言葉が欲しい。背中に回していた手でぺたぺたと顔に触れ、海は息も荒いままに泉帆と視線を合わせた。 「ちゃんと、口で言って?」 「……君と出会ってからずっと、君のことしか見てないよ」 「っ」  高校時代の恩師からのストーカーの相談をしに交番を覗き込んでいた初対面も。  初めて弁当を持って行った春先も。  この家に初めて上がって手料理を振る舞った初夏も。  そして、恋に変わった7月のあの日も。  泉帆はずっと、海を最優先にしていた。  他の人と親しげに話しているところは一度も見たことがない。誰かと世間話をしていても、自分が顔を出せば途端に表情が綻んでいた。  出会ってからずっと、泉帆は海ばかりを見ていた。海しか心の中にいなかった。  堪らなくなり、きゅうと泉帆の欲望を締め付けてしまう。泉帆は小さく呻き避妊具越しにまた達し、それさえもまた高揚させるスパイスになる。  海は一度体を離し、泉帆に強請った。 「ね、まだできる? 生でしよ、おねがい。おれの中にいっぱい出して、赤ちゃんできるくらいずっと愛して」  自分は男で孕むことはできないけれど、その分愛を胎いっぱいに満たしてほしい。  結婚もできない。子供も産めない。口約束に近い繋がりしか自分達には作れないけれど、海はただ、泉帆に愛されていることをもっと実感したかった。  今日はしないと言っていたけれど、これだけしてしまったのだからもういいだろうと泉帆の欲望に装着されていた避妊具を外し封を縛り枕を抱いた。 「ね、声ちゃんと我慢するからおねがい」 「……本当に、搾り取られそう」 「休憩してもいいよ、その代わり勃たなくなっても朝まで離さないから」  今したい。すぐにでも愛されたい。泉帆は根負けし、何もつけていない状態の欲を何度か上下に擦り芯を持たせ始める。海は枕に顔を埋めながらまた俯せになり、覆い被さる泉帆を受け入れた。  たった0.02mmの違いでも、十分すぎる程に愛を感じる。本来そこは行為するためにある場所ではない。元々はノンケだし、性器を生のままで排泄器官に挿入するなんて嫌がるのが普通なのに泉帆は何の躊躇いもなく挿入してくれた。その行為だけで嬉しくて、十分な程に満たされてしまう。  それでもセックスはやめられない。場所を教え込んだ前立腺と、最奥を何度も突かれ、必死に声を抑えながらも勝手に腰が動き善がる。何度も潤滑剤が足され、水音が部屋に響く。  マットレスの軋む音と水音と泉帆の荒い吐息と。海は感情が昂り過ぎて溢れ出てきた涙を見られないように顔を枕に押し付け、喉の奥から零れる声を必死に押し殺した。 「海くん、好き」 「んっ、ん、っ、ぅ、ン……」 「好きだよ。海、愛してる」  耳元で、初めて呼び捨てで名前を呼ばれる。それだけでまた限界が訪れ、反射で腹がひくつき腰を引いてしまった。  少し落ち着いてから再開したいのに、泉帆の大きな掌で腹を抑えられ無理に奥を突かれる。何度も何度も激しく突かれ、逃げようとすれば耳元で愛を囁かれ。  海は長い時間ゆっくりと愛され続けることが好きな絶倫で、激しいセックスは経験すらあまりない。泉帆は逆に、短い時間でもガツガツと激しくすることが好きな方だったらしい。潤滑剤だけだったはずの水音は早漏故に精液混じりのものへと変わり、願った通りに胎は泉帆の子種で満たされた。  もう何も考えられない。つい数時間前まで童貞だったなんて信じられない。  海は結局、その激しい行為に意識が飛ぶまで泉帆に愛され続けた。

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