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EP.28
肌寒さに目覚めると、もう朝になっていた。
気絶してしまったのか。海は腹の違和感に起き上がりかけ、後ろから抱き締められていることに気がつく。
自分の腹に回った手をそっと剥がし、振り返るとそこに眠っていたのは愛おしい人。
「……もー、するつもりなかったのにな」
押されて、流されて、受け入れてしまった。
真っ直ぐに送られる言葉が嬉しくて、向き合ってしまおうと思ってしまった。
これから交番に行く日もSNS上でも隠し通せるだろうか。こんなにも、好きになってしまったのに。
ひとまず風呂に行って泉帆に愛された証を全て洗い流さなければ。海はゆっくりとベッドから降りるため、四つん這いで静かに動く。
いつの間にか全て脱がされていた服はベッドの下に乱雑に放置されていた。下着だけでもと手を伸ばしていると、背後の泉帆が身動ぎしたのがわかった。
「みずくん、起きたー? 朝ごはんはスーパー行ってから、……みずくん、しないよ?」
大腿を撫で回され、海は隠すように手に持っていた服で防御する。それでも泉帆の手は止まらず、肌を撫でてきた。
「しないってば」
「するつもりなかったなら、無理に頷かせちゃった?」
「……起きてたの?」
「一応ね。……したくなかった?」
「そういうことじゃないけど、……みずくんは、女の人と結婚するって思ってるから」
「しないよ。そこまで気にするなら男同士でも結婚できるところにでも行く? 俺は君がいるなら海外でもいいよ」
「やだ、待ってしない、しないの」
「どっちをしないの?」
起き上がった泉帆は海の上にのしかかり、全身を大きな掌で撫でてくる。耳許にキスをされながら問われ、快楽に弱い身体にはぞくぞくと甘い痺れが走る。
「えっちも、結婚もしない……」
「海がこんなにエッチなこと好きだって皆にバレちゃうから?」
「もー、みずくんのばかぁ……っ!」
逃げられない。海は俯せに近い状態で大きく足を広げさせられ、夜に散々暴かれたそこを軽く刺激されただけで甘い声を漏らしてしまった。
「指だけがいい? それとももっと深いのがいい?」
「……お隣に聞こえちゃうから、指だけ」
「嗚呼、そういえば昨日も気にしてたっけ。此処、実は防音物件なんだよねって今更言ったら怒る?」
ギタリストらしい隣室の住人が出した音が聞こえたこともないし、と加えた泉帆は節ばった指を柔らかい襞の奥へと差し込んでくる。
「だから、海が昨日我慢できなくて散々喘いでた声も俺以外には聞こえてないよ」
「……もう、ばかぁ」
「馬鹿な俺とは一緒にいたくない?」
綺麗な方の指が、左手の小指に嵌められた指輪とその隣の指の付け根をなぞる。
もう一押しだと、泉帆は更に耳許で囁いた。
「これ、もう少しだけ大きいの作ろうか。それともちゃんとお店で買う方がいい?」
「……みずくんが、つくって?」
一度愛した人に捨てられ、その場限りの偽りの愛で抱かれ続けていた海は本心から愛されることに弱い。
愛の象徴でもある左手薬指の指輪。言外にそれを作ろうなんて言われてしまえば、海は陥落するしかなかった。
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