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EP.29

 朝からまた抱かれ、終わった途端に泉帆は横に倒れるように寝転んだ。何回でもできそうな雰囲気はあったが、最中から一度だけと何度も懇願していたから言うことを聞いてくれたようだ。 「みずくん、ちゃんと目ぇ覚めた?」 「うん」 「おはよぉ。冷蔵庫の中何にもないみたいだし、スーパー行ってくるね。おれがご飯作らない間はどうしてたの?」 「適当に、総菜とか買ってたよ。海が作った料理じゃないとあんまり美味しくなくて全然食べれなかったけど」 「もう、褒めても何にも出ないからね」  身体を起こし、先にシャワーを浴びてからスーパーに行こうとそちらへ向かう。  立ち上がろうと足に力を入れたのだが、海は次の瞬間には床にへたり込んでしまった。足に力が入らない。腰も抜け、下半身の関節全てが悲鳴を上げている。 「海?」 「……みずくんのばか」 「え、俺の所為?」 「もー、立てない!」  一度対面でしてしまってから、互いに箍が外れてしまい様々な体位をしてしまった。その所為で海は立てなくなってしまっていたのだった。  とにかく早く風呂場に行きたい。四つん這いさえ満足にできない今、移動できない憤りは泉帆に八つ当たりでぶつけるしかなかった。 「みずくんのばか、もうおれ何もできないじゃん!」 「しすぎたから腰抜けちゃった?」 「そう! シャワー浴びたいのに!」 「はは、ごめんごめん。運んであげるね」 「ばかばか、いらない! みずくんのばーか!」  笑いながら抱き上げようとしてくる泉帆を拒否し、海は何とか自分で動こうとテーブルに手をつきもぞもぞと動く。が、やはり動けるはずもないわけで、何度か試してみた後にじとりと服を着て近付いてきた泉帆を見上げた。 「運ぼうか?」 「……手だけ、貸して」 「はい、どうぞ」  両腕を差し出され、立ち上がるために全力で掴み引っ張る。逆に泉帆に簡単に引っ張り上げられ、腰が抜けたまま泉帆に抱き締められるような体勢になってしまった。 「ま、って、待って、みずくん歩けない、待って」 「運んであげるよ」 「わ、待ってってば、ほんと、おれ重いから!」 「海はどんなに重くても気にならないよ」  泉帆は簡単に海を抱え上げ、風呂場まで連れ込む。二人分の体重で床が一瞬軋んだが、海を椅子に下ろし、泉帆はすぐに外に出た。 「終わって立てなかったら呼んでね。また運ぶから」 「うん。あ、みずくん朝ごはんどうしよっか」 「パンとかでいいならシャワー浴びてる間に買ってくるけど、何か食べたいものはある?」 「んー、デザートあるなら何でもいいよ。みずくんが食べたいもの買ってきなよ」 「わかった」  そういえば、まだプリンは食べられていなかった。買い物に出る泉帆のことを送り出し、海はお腹が空いたと腹を撫でる。  腹の奥まで、愛されてしまった。この違和感をなくしたくないけれど、洗い流さなければ身体を壊してしまう。  嗚呼、自分が女だったら良かったのに。そうすれば泉帆のことも最初からのらりくらりとかわすなんてことせずに受け入れられたし、結婚だってできたし、……こんなにも愛されたら、子供だって。 「なんでおれ、男なんだろ」  流し始めたばかりのシャワーは冷たく、温かいお湯に変わるまで左手を濡らす。  可愛いものは好きだし甘いものも好き。男性しか愛せないし、行為をするなら抱かれたい。でも今まで女になりたいなんて思ったことなかった。  それなのに今は、泉帆のために女の子になりたくて堪らない。

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