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EP.32
カフェに着き、他の店と同じようにテラス席を希望し通してもらう。
冷房が効き過ぎた店内より、少し暑いけれど日陰のテラスの方が海にとっては快適だった。
此処のおすすめはフローズンヨーグルトのパフェ。フルーツもてんこもりの一番豪華なそれを注文し、心弾ませながら到着を待つ。
少しお小遣いが心許なくなってきたから、夏休みが終わる少し前に一度家に帰ろう。泉帆の家にいつまでもお邪魔するわけにはいかないし。
疑似的な新婚生活は楽しかった。いつか、この日々が一生続けられるようになれれば、なんて夢まで見てしまう。
こんな幸せがずっと続くなんて有り得ないなんて、心の何処かで思ってもいるのに。
「お待たせいたしました」
店員の声と共にやってきたパフェに、すぐに意識がそれだけに注がれる。周囲の視線も気にすることなくすぐに写真を何枚か撮った海は、そうだと泉帆にも写真を送ってみることにした。
一緒に遊びには行けないけれど、こうして思い出を見てくれれば。向かいの席もきちんと写り、一人だけだということがわかる写真を選んで送ってみる。
いつ送ったことに気付くだろう。もしかしたら、明日帰ってくるまで気付かないかも。でも早く見て、何か感想を言ってほしい。海はそわそわしながら何度も携帯を眺め、溶けてしまう前に急いでパフェを頬張った。
冷たいヨーグルトの控えめな甘さがたまらない。海は一人だというのに抑えられないリアクションで美味しさを表現しながら次々と口に運んでいく。これは気付いたらなくなってしまうやつだ。大切に食べたい。そう思いながらも気がつけば半分ほどが消えていた。
「幸せってどうしてすぐなくなっちゃうんだろう」
思わず零してしまった独り言は、パフェだけを考え出た言葉ではない。壊れた宝物とか、一度拗らせてしまった泉帆との関係だとか、お兄ちゃんとの遠い昔の記憶だとかを反芻させてしまう。
幸せを感じている時は、時が経つのがあまりにも早すぎる。そして、それがなくなってしまった途端に時が経つのは遅くなる。
逆ならいいのに。逆なら、自分もこんなに拗らせることはなかっただろう。あんなに甘えて好きだと伝えて想いを通わせた泉帆を信じきれていない自分なんてきっといなかっただろう。
ずっと、この幸せが続くならいいのに。
「あれ、海」
また名前を呼ばれる。今度は男の声だ。少し泉帆に似た、低めの甘さを含んだ声。
「みずくん?」
スプーンを置く余裕もなく振り返る。そしてその声の主を視界に捉え、思わずウッドデッキの上に取り落としてしまう。
そこにいたのは今愛している彼ではない、かつての最愛の人とその伴侶だった。
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