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茨の棘が刺さるまで
「ほんと可愛いね〜」
「えっ、かっこいい〜!」
「もちろん俺も大好きだよ」
嘘偽りのなく、ただ薄い感情が乗っかった言葉の羅列。圭の言葉は決して嘘ではない。けれどもとても俺達と同じ重さではない。そしてそれは大特価バーゲンセールかのように常に周りに振りかけて。
俺はそれを自分だけ浴びたかった。圭の気持ちが俺だけに向くという贅沢な願いを叶えたくなったのだ。
圭を好きになったのは出会って数週間後、ほぼ一目惚れかもしれない。しかし誰にでも優しい圭が好きになったのに、その行動は目で追いかける度自分の心を苦しめるようになった。2年経った今、最初こそは好きという気持ちでいっぱいだったのに、今じゃ黒すぎて好きかどうかすらも分からない。
「圭」
俺は遠くで色んな人に囲まれて話している圭を見て小さく呟く。ああ、こんなにも遠いのに、
「..どーしたの?ゆーきちゃん」
どうしてお前はすぐに近寄ってくるんだ。
圭は底なしの優しさを抱えていて、それに引かれる人間は多いし圭自身が手を引いて来るんだ。それに俺は騙されてしまった。
逃げたくなるほどに苦しいくせにこの甘美なひとときを逃げるなんてできやしない。クソほどの八方塞がり。
「ゆーきちゃん」
「..ゆーきちゃん?」
「もう!ゆーきちゃん!」
名前を呼ぶ声でさえ俺を蝕む。大好きだったこの声が、呼び方が、感情が今じゃ俺を縛り付けて離さない。振り解けないほど強く絡まって、絡みついてしまってあとは死を待つのみ。
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