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第2話
冬休みを挟んでも2ヶ月と持たなかった恋人関係が終われば、2年に上がったすぐの頃また別の女子に告白され、付き合った。
今度は間違えないように周りの友人を見習って学校終わりに並んで帰ったり、土曜は図書館で一緒に宿題を開いたりした。
男ばかりが集まった時に繰り広げられる下品な会話で、案外早い奴は既に童貞を捨てていたのもいる事を知り、爺さん教師の念仏みたいな保健の授業よりよっぽどタメになったのを覚えている。
俺だって、恋愛がわからないだけで人並みに性的欲求はあるし興奮もする。
中学2年なんて思春期な上に初めて性を知る猿だ。怖がるフリして自ら成長途中の胸を触らせて来た二度目の彼女と、たどたどしいながらも初体験までを済ませた。
と言っても、その彼女にも半年もせず振られたのだが。
言われた台詞はまた同じ。
「好きじゃないでしょ」だ。
手を繋いで、休み時間に話し、部活終わりは遠回りをして帰る。抱き締めて、キスをして、セックスしてもこれなのだ。俺の事を好きなら、わざわざ別れを切り出す意味がわからない。
いつだったか二つ上の姉から拝借した少女漫画に描かれている切なさや、読んでいる此方が恥ずかしくなるような甘さなどどこにも見つからないままだ。
ここまで来ると意地になり、後輩や隣の学校にも足を伸ばし始めた。
そうこうしているうちに、俺はいつしか進学した高校でも有名な遊び人として認知される事になったのだった。…微塵も嬉しくない。
教室ではもれなくヤリチン呼ばわり、面倒な他校の女子を引っ掛けてしまった翌日には校門までご丁寧に集団でお迎えにあがられる事もしばしば。今日も振られたついでに左頬へ平手を一発お見舞いされた所である。
真横で起こった惨劇に凍り付いた友人たちは、そそくさと俺を置いて帰ってしまった。あの状況なら逆に笑い飛ばしてもらった方が、こちらとしては救われるのだが。
久しぶりに独りきりで歩く道は、普段と何も変わらないのに何故か妙に心地が良い。吸い込む空気がうまくて、重たいスクールバッグは反対の肩にも掛けられる。
だがたとえ疑似恋愛であっても彼女を失えばそれなりに凹むものだ。
「きっとまたいいと思える相手が見つかる」「あまり引き摺るなよ」明日友人に掛けられるであろう言葉への返答を考えながら足元を見つめるこの作業も、一体何度繰り返してきただろう。
本来そう言った慰めは、本気の恋愛をして失敗した人間に対して使うものであり、俺のように好きにもなれない相手を失っただけの薄っぺらい男には受け取る権利すらないのだ。
自分の事は自分が一番よくわかっている。俺は、大切な人が居なくても生きていける自分が悲しい。
だから恋を知る相手を探し、教えてほしいだけなんだ。
そう強く思うようになったきっかけは、前述の姉が関係している。
家は隣同士、親同士の親交も深く俺もよく一緒に遊んでいる彼氏と、もう間も無く同棲を始めるそうだ。幼馴染の彼氏なんて友達と何が違うんだと不思議に思うが、どうやら彼らはそうではないらしい。
「あれ?ヒロちゃんじゃん、今日一人?」
「智に…ぁ、クン」
「トモにぃでいいよ?どうせ本当の兄ちゃんになるもん俺」
「あーハイハイ」
早速ご登場だ。このフワフワした男は湊智彦と言って、幼い頃から何かと世話になっている隣の家の先輩。俺の一つ上で、先日進学する大学が決まった、姉の彼氏。
一足早く高校を卒業した姉とこの春から同棲するというので、もうすぐ智君とも会えなくなる。
「うーわ、どしたのソレ。なんか腫れてるけど喧嘩?」
「違う。彼女…あーもう元カノか?に全力ビンタされただけ」
「あっはは、出たよお約束。また振られたの~?」
自転車を降り、徒歩の俺に合わせてくれる智君は引くでも心配するでもなく、ただ可笑しそうに笑っている。
単に見慣れた光景なだけかもしれないが、俺にはそれが嬉しかった。友人に下手くそな気遣いを見せられた直後だったからというのもあるかもしれない。それでも、ああそう。コレコレ。これが欲しかったんだ俺は、と腑に落ちる瞬間を確かに感じた。
「やっば、マジ真っ赤じゃん痛そう」
「そろそろ顔面の痛覚麻痺してきてもいいと思うんだけどね。ウゼーくらいしっかり痛いわ」
器用に自転車のハンドルを片手で操作する智君は、冬の風を受けてかじかんだ指先を俺の頬に沿わせる。冷たいのか痛いのかももはやわからず反射的に目を閉じれば、そこで初めて不安そうな顔をして下から覗き込むのだ。
優しくて明るい性格の童顔。全部顔に出る所は結構面白い。
「触るのNGレベル?家お邪魔させてよ、手当てしてあげる」
「別に自分でも出来るけど…つか放っといたら治るよ」
「だーめ。ヒロちゃんは俺の大事な弟だかんね、世話焼かせてよ」
「……はあ」
今だって、すごくわかりやすい。
本当は姉に会いたいだけなのだろう。ちょうど良い所に俺がいたと、それが偶然にも怪我していたと、良い口実になったと思っているに違いない。だから俺が折れた途端嬉しそうにはにかむんだ。
大事な弟と言われても、俺と智君は一つしか歳も変わらないし身長だって同じ。5年後にどうなっているかは知らないが、今のところ俺を弟と呼んで良いのは姉一人だけであり、智君は言ってしまえば他人である。
まったく、この人はいつもこうなんだから。
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