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友だちだから大丈夫.3

 そうと決まればとオレはパジャマの下履きとパンツを下ろす。  おかずなんてものはいつも特になかった、ただ本当に処理するだけだ。壁に寄りかかり、そこをそっと握りこむ。 「ごめん、凌平」  いつも共に笑って共に暮らしているこの部屋でするのは初めてで、オレはちいさく凌平に懺悔した。  ちゃんと後で換気もしなきゃな、なんてことまで考えて手に力を込めようとした、その時。  突然響いたガチャン、という音に、オレのからだは驚きのあまり飛び上がった。 「う、うわぁ!?」 「純太? どした?」 「お、おま、な、なんでか、かえ、」 「何で帰って来たって? ……ジョギング行って戻って来ただけだけど」 「は、ジョ……? は?」 「何そんな動揺し……あー……」  凌平が毎朝ジョギングをしていることくらい、オレはちゃんと知っている。時計を見る気力すらなかったことが招いた悲劇だ。  ちゃんと確認さえしていればこんな格好で鉢合わせせずに済んだのに。部活に行ったものだとばかり思いこんでしまった。  それでもどうにか誤魔化せられれば良かったのだけれど、隠すことすら忘れてしまった股間に凌平の視線がまじまじと向けられていて。  足元でぐしゃぐしゃになっていたタオルケットを手繰り寄せたところで後の祭りだ。 「もう〜マジかよぉ……オレもう生きてけない」 「大げさじゃね?」 「大げさじゃねーし……すげー恥ずかしい、ムリ、なーどうやったら凌平の記憶消せんの?」 「んー、それは無理だな」 「そこをなんとか! ……って、なんでこっち来んの!?」  両手を合わせて願ってみても、水に流してもらえそうな気配は微塵もない。  言いふらすなんてことはしない奴だと分かっているが、凌平の脳みそに自分の痴態が残ることがオレは我慢ならなかった。  それなのに、凌平はあろうことかオレのベッドへとやって来て目の前にしゃがみ込む。 「そんなに恥ずかしいか?」 「っ、当たり前じゃん!」 「普通のことだし男同士だし。そんな気にすることなくね?」 「そういう問題じゃねぇよぉ。いくら友達でもこんなとこ見、」 「それよりさ」 「そ、それよりって何!? てかオレ今話してたけど!?」 「してやろっか?」 「し……は? え、な、なに? なにが?」  正直なところ、この現状にオレのそこはほぼほぼ萎えてしまった。  そのはずなのに、見上げてくる凌平の目が妙に熱っぽい気がして、それに引っ張られるように再び熱を持ちそうになっている。  なんでだよ、と自身にツッコミながら後ずさりしてみても、壁に挟まれていると強く実感するだけだ。  そして極めつけのしてやろっかのひと言を、オレは噛み砕くどころか一ミリも理解が出来なかった。 「恥ずかしいの嫌なんだろ?」 「そ、そう! だから離れ、」 「じゃあ抜いてやる」 「へ……いや、いやいや、凌平くんなに言ってんの……」 「純太だけが恥ずかしいんじゃなくて、俺も共犯になるからさ。そしたら大丈夫だろ」 「全然大丈夫じゃないと思う……それにダチ同士で触るとかナシだろ!?」 「え?」 「……え?」 「男子校あるあるじゃん」 「……なにが?」 「抜き合い」  そう言った凌平はオレのベッドに腰を下ろした。  確実に近づく距離と心底不思議そうに傾げられた首が、元々起きたばかりでぼんやりしていたオレの思考を鈍らせる。 「は、初めて聞いたと思うけど……」 「あー、純太はそういうの鈍いもんな」 「お前、馬鹿にしてんだろ……」 「してないよ。褒めてる」 「ぜってー嘘」 「本当に。そういうのそっちのけで本気でサッカーしてんだもんな」 「っ、」 「純太が頑張ってるって知ってる」 「……もー、やめろよぉ」  凌平のこういうところがいけないのだとオレは火照り始めた頭で思う。  同級生の友達にこんなに甘えていいのか? と疑問に思っても、それを取っぱらってしまうのはいつだって凌平の優しさだった。  すり減ってぼこぼこに凹んだ心に手を当てられて、これまでの日々を称えて柔らかくされて。  凌平だからいいのかな、なんて、弛んだ思考は有り得ない答えを導いてしまう。 「他人の手って気持ちいいぞ」 「……凌平もしてんの?」 「なにが?」 「その……抜き合、あっ」  タオルケットを奪われたその先に、またすっかり元気になってしまったそこが見えた。  咄嗟に足を閉じようとしたけど凌平に抑えられてしまう。けれどその手に強引な力は微塵もない。  最後の決定権を委ねられているのだ。  だめだ、だめだ、分かっているのに。その優しい手にもう全部預けてしまいたくなる。 「どうする、純太」 「っ、ほ、ほんとに……」 「ん?」 「ほんとに、ダチでそういうの、変じゃねえ?」 「ん、変じゃない。ただ抜くだけだし」 「あ……」  凌平の指先が先端に近づいて、ギリギリのところでピタリと止まる。  少しでもまた凌平が動けば、少しでもオレが震えれば当たってしまう。  もどかしさは興奮の材料になるばかりで、からだは更に熱を帯びる。  ――ああ、もう。  誘惑に負けるのに時間はもう必要なかった。 「凌平……さ、触って」 「了解」

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