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全然大丈夫じゃない.2
「あ、あのさ、聞きたいことがあんだけど」
からだをテーブルの中央に突っ込むようにして声を潜める。
知識が浅いと言ったって、大声で話すようなものじゃないことくらい分かっている。
そんなオレにみんなが耳を寄せてくれて、緊張をごくりと飲み下す。
「ぬ、抜き合い、って……みんなしたことあんの?」
「……あ、そっち?」
「どっかの学校のマネが気になるとか言い出すかと思った」
「はは、俺も」
けれどみんなは何だそんなことか、と言わんばかりにテーブル上の密接なミーティングは即解散となった。
背もたれに寄りかかりながら脱力するタク、その隣のユウゴは頬杖をついてジュースをひとすすりして、オレの隣のショウが「それがどうしたの?」と続きを促してくる。
「え、めっちゃ普通ってリアクションすんじゃん」
「まあなー。珍しくもねぇだろ。そんで?」
「へ、へぇ、そうなんだ……それで、えっと……」
疑っていたわけじゃないけれど、本当の本当に“あるある”らしい。
緊張していたのが間抜けな気がしてきて、けれどこれは好都合だ。
きっとオレの悩みをみんなが解決してくれる――そう思ったのに。
「そん時にキスってしたくなる?」
「は? いや、それはない」
「え。なんで? え、ショウは?」
「キスはしたくないよね」
「ええ……なあユウゴは!?」
「俺彼女いるからなぁ、そういうのは経験ねぇわ。でもまあ野郎とキスはねぇな」
同意してくれる友は誰一人いなかった。
ええ、なんで?
クエスチョンマークばかりが浮かび固まってしまったオレをみんなも不思議そうにしていて、隣のショウが「純太はするの?」とまたパスをくれた。
「いや、したことない、けど……」
「ないんかい」
「うん、ない……んだけどさ。だって変じゃん!」
「なにが?」
「順番おかしいじゃん。エロいことしてんのに」
「あー……あのな、純太」
なるほどなるほどとわざとらしく頷くタクが鼻につく。
そんなタクはオレのポテトを一本盗んで、ぴょんぴょんと振って説明を始める。
まるで小学生を相手にする教師のように、ゆっくりと丁寧に。
腹立つ。
「そういう順序ってのは、恋人同士のもんなの」
「……恋人同士」
「おう。ここまではオッケー?」
「……オッケー」
それは確かに、オレだって分かっている。
抜き合いなんてものを知らなかったオレの頭には恋人同士のコミュニケーションの知識しかなくて――それもたかがしれているが――、それをなぞるような妄想を凌平相手にしたことが事の発端だ。
だけど、凌平とそうするのは自然な気がしたから。
冬がすぐそこに待ち構える今になってもただ触れ合うだけなのが寂しいのだ。
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