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全然大丈夫じゃない.3

「抜き合いはただの抜き合い。ただの処理を他人の手でしてもらって、こっちもやってやってるだけ。お互い様だからウィンウィンだろ。それで終わり」 「……キスしたくなんねぇの?」 「ないない、むしろ無理。なぁ?」  タクの言葉にユウゴもショウもうんうんと頷いている。考え込むオレにタクが続ける。 「じゃあ聞くけど純太、俺とやってキスできんの?」 「…………え? タクと? いや無理。てか触るのも嫌かも」 「お、お前なぁ……なんで俺がフラれたみたいになんなきゃなんねぇんだ、よ!」 「いったぁ!」  軽く放たれたデコピンに反射的に額を抑え、オレは薄らと浮かんでしまった涙をぐすんとすする。  でも正直助かった。  そっか、凌平も単純にオレとキスすんのは無理なんだ、って……ショックで泣きそうだったから。  ただ、はっきりとしたことがひとつある。  凌平としかそもそも抜き合い自体したくないってこと。  そう言ったことだってあるけど、ちょっとリアルに想像して途中で投げ出すくらいにはそうなんだって再確認できた。  ショックを隠し平気なふりでオレは納得したように薄くなったメロンソーダをすする。 「でもやっぱ変じゃね。キスよりエロいことしてんのにキスは無理って」 「純太、それは間違ってんな」 「え、なにが?」 「抜き合いなんかより、キスのほうがエロい」 「おい純太、お前のせいでユウゴのマウント始まったぞ、どうにかしろ」 「キスのほうがエロい? なんで?」 「聞くんかい」  ふふん、と得意げに口角を上げたユウゴがテーブルの中央へとオレを手招く。  耳を寄せれば今度はユウゴ先生のありがたい授業の開始だ。  なんだかんだでタクと、それからショウもオレたちを静観している。 「そもそも純太はキスってどんなか知ってんの?」 「知ってるし。馬鹿にすんな」 「そうかー? 口くっつけるだけじゃねえぞ?」 「それも分かるっつの! でぃ、ディープってやつだろ」 「お、思ってたより大人じゃん。じゃあちゃんと想像してみ。相手の口ん中にベロ入れんだぞ」 「…………」 「やっこいけど弾力もあんだよな。味がすんし、あっついし、ぐにぐにしてっから段々、」 「っだー! 分かった! も、もう分かった!」  ユウゴの説明は生々しくてオレは早々にギブアップしてしまった。  熱い気がする顔を手で扇いでいると、タクはどうやら友だちのそういうのを聞くのが嫌だったらしくげんなりした顔をしている。  ショウは反対に涼しげな顔だ。 「な? キスもエロいっしょ」 「っす、さすがっすユウゴ先生」 「分かればよろしい」 「でも……あーいや、なんでもない」  それでもオレは、むしろ……そこまで考えて、うっかり滑りそうになった口を閉じた。  メロンソーダもポテトもほっぽいてうんうんと唸るオレに、さっきとは打って変わって優しい声がユウゴから届く。 「で? どうよ」 「うん?」 「キスしないのはそれでも変?」 「それは……」 「まあ別に今すぐ判断しろとは言わんけど。もし変わんねえんならさ、それなりに考えてみんのもいいんじゃね」 「…………? ユウゴ先生ちょっと何言ってんのか難しい」 「そうかー? こっから先は自分で考えなさい。まあヒントとしては、少なくともタクとは抜くのすらナシなんだろ」  ユウゴの手引きでなにかに手が届きそうで、オレより先に理解しているのか心臓がスピードを上げ始める。  でもこれはもっとちゃんと、ひとりでじっくりと向き合うのがいい気がする。  そんな予感を隠すように、ユウゴの問いかけに神妙な顔で即答した。 「うん、ナシ」 「おいさすがに2回目は傷つく」 「はは、傷ついちゃうんだ」 「ショウ~笑ってんじゃねぇぞ」  また俺フラれたんだけど? と不服なタクにみんなで笑う。  大好きなサッカーに同じ熱で取り組んで、こんな話だって笑いを交えながらもなんだかんだ真剣に聞いてくれる。  こいつらと出逢えたオレの人生は、もうそれだけで花丸だ。

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