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全然大丈夫じゃない.4
「そろそろ帰るかあ」
「外絶対寒い! 出たくない!」
「そう言えば純太も来たの久しぶりだったな」
食べ終えたごみをきちんと捨てて、トレイを返して。
寒い外に意を決して出る。
腹の中のメロンソーダにまで凍えそうでオレはちょっとだけ後悔してきた。
凌平もたまにコーヒーを飲んでたりするから、うん、やっぱりオレも飲めるようになりたいかも。
「確かに。ここ最近部活終わったら速攻帰ってたもんな」
「今日はルームメイトがいないからじゃない? たしか練習試合で一泊だったよね」
「は? 帰ってもひとりだし〜とかそういう?」
「寂しがり屋かよ! やっぱり純太お子ちゃまじゃん」
ちゃんとマフラーしてけよ、と言ってくれる凌平が外も暗いうちから出掛けてしまったから、オレはしっかりマフラーを忘れてしまった。
まとわりつく風が氷のように冷たくて首を竦め、ついでに手はポケットに突っ込む。
「でもさ、ひとりの日って嬉しくね?」
「だなあ。俺も部屋のヤツとは仲良くやってる方だと思うけど、寂しいとかねぇな。純太の同室って誰だっけ」
「あーもう! 凌平だよ!」
寂しがって来たのがバレバレで恥ずかしくて黙っていたけど、凌平に話が及べばそうも言ってられなくなってしまった。
自分のことのように鼻高々に答えれば、そうだったなとタクが頷く。
「野球部のキャプテンだったよな」
「そう!」
「キャッチャーだっけ」
「そう〜!」
「あー、あのモテモテの」
「そうそう! ……え、そうなの?」
なんでお前がドヤッてんの、と突っ込まれても仕方ないくらいふんぞり返っていたオレは、さらっと放たれたユウゴのひと言に立ち止まってしまった。
こんなとこで急に止まんじゃねぇ! と叫ぶタクに背を押されて、だけどオレはそれどころじゃない。
ザワザワと騒ぎ出した胸の意味が自分でも分かんないから。
凌平がモテる? マジ?
それは他校の女の子たちからってことなのだろうか。
その答えは、俺の彼女が言ってたとのユウゴと、野球部のクラスメイトからも聞いたことがあるというショウが教えてくれた。
男子校だから校内に出逢いはなくとも、たとえば他校との交流の時なんかに機会がないわけじゃない。
サッカー部だってそうだ、ユウゴもそれで彼女が出来た。
そう、今まさに練習試合に遠征してる凌平にそのタイミングが訪れている、というわけだ。
「凌平が……モテモテ……」
「純太ー? おーい」
「こりゃ聞こえてねぇな」
「あー。そういうことねー」
頭がぐわんぐわんと揺れているオレは、だからタクたちが何を言っているのか分からなかった。
さっきの話ソイツとのことなんじゃねとか、つまり野球部のキャプテンに恋しちゃってんだな、とか。
オレより先に答えにたどり着かれていることにも気づけない。
間抜けなオレの心臓に季節外れの台風が到来。
頭の隅の隅まで凌平でいっぱいで、どうやって寮に帰ったかもオレには分からない。
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