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全然大丈夫じゃない.5
寮に帰って「純太それだけで足りんの? 風邪でもひいた?」と誰かに心配されながら夕飯を食べ、風呂に入った。
「それボディーシャンプーだぞ!」と慌てて教えてくれたのは誰だったっけ。
どうりでキシキシするな、と感じることも出来ていなかったけど、大浴場に備え付けのシャンプーで洗い直した髪からは凌平と同じ匂いがして、キシキシのほうがまだよかったかも。
寂しい部屋に戻って、主がいないのをいいことに床に座り込んで凌平のベッドに頭を預けた。
シャンプーどころじゃない、凌平の夏の太陽のような匂いにくるまれるみたいだ。
堪らず零れたため息は戸惑いか、諦めか、嫉妬か……あるいはそれら全部か。
得体のしれない感情をぐつぐつと煮詰めていたら目の奥がじんわりと熱くなって、慌ててきちんと整えられたシーツに鼻先をこすりつけた。
詳しく語られるキスをあの時頭の中で再現したのは、オレと凌平だった。
オレは単にキスがしてみたいんじゃない、“凌平と”したいのだ。
ユウゴ先生が与えてくれたヒントが導く先をオレはきっともう分かっている。だってこんなの、凌平だけだから。
だけどなんだってこんな日に凌平はいないのだろう。
会いたくて、顔が見たくて、出来ることならくっつきたい。
そこまで考えて寒空の下で聞いたあのワードがぐわんと頭に響く。
凌平はモテモテ、そりゃそうだ、あんなに優しくてかっこいいヤツはそういないんだから。
ただ、都合のいいオレの頭はあの甘美な優しさがオレだけのものだと思い違いをしていたのだ。
知ってるくせに、凌平が先輩からも後輩からも、先生からだって慕われていることを。
それが誇らしくすらあったのに。
オレだけじゃなかったんだって、会ったこともない多くの女の子たちが色めくまなざしを凌平に向ける様を想像して、遠ざけたいなんて思ってしまった。
涼しい瞳がこぼすやわらかな光も、武骨な指が与えてくれる甘やかな刺激も、からだの奥から放たれる熱さも。
オレだけのものがよかった。
「りょーへい……」
白いシーツに凌平を探すように、押し付けた鼻からゆっくりと強く吸い上げる。
凌平のまぼろしをまぶたに映して、今度は頬を擦り付けた。
こっくりと熱い息が抜けて、オレはパンツの上からゆるく勃ちはじめたそこに触れてみる。
熱がたまったそこは布越しでもあつく、譫言のように凌平の名をくり返し呼んでしまう。
触ってほしい、オレも触りたい、凌平だけだ――好きだから。
「りょうへい、ぐすっ、もう、なんで、いねえんだよぉ」
本当は気づいていたくせに、「もしかして、」と留めていた答えをオレはいよいよ意味のある言葉にした。
心の中に並べるだけでこみ上げてくる感情に、鼻をすすりあげる。
こんなのよく気づかずにいられたよな。
キャパシティを弾けるみたいに超えてやっと気づく、友の助言の先で。
情けなくて、ちょっと悔しくて、だけど凌平を好きな自分に出逢えてオレは嬉しかった。
凌平はどうかな、知ったら困るかな、もう触ってくれなくなるかな。
不安は少し快楽を遠ざけ、早く解放されたくてオレはパンツの中に手を忍ばせた。
凌平がどんな風にオレを気持ちよくするか、からだがしっかり覚えている。
それをなぞるように扱いて、先端につぷんと埋めた指でいじって……だけど。
絶頂の予感はなかなかやってこない。
ふと考えるのは、最後に自分でしたのはいつだったっけ、ってこと。
記憶はとうとう夏の終わりまで遡って、ああ、オレの秘めた夜はもう凌平ばかりだったと気づいた時。
パンツの後ろポケットに入れていたスマートフォンが着信を知らせ、オレは飛び上がった。
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