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第12話
志野との出会いから3年という月日がすぎ、環境は大きく変化した。
高卒認定試験という高校卒業と同等の資格が得られる試験に合格し、志野の身内が運営している化粧品販売の営業職へ就けることになった。
売れ行きはもちろん上々で、得意先から依頼がくることも増えたおかげか、おれの給与も好調の兆しを見せていた。
「リクくーん! すべり台おちるよぉ!」
元気な子どもの声がして公園の方を見てみれば、小学生らしき子どもがすべり台から落ちそうになっていた。
なんとか手すりをつかんではいるものの、手を緩めれば遊具の外へ落ちてしまう。
「大丈夫か〜? おにいさんが支えてあげるから手離してみな」
「おちる、こわぁい!」
「大丈夫だから、ほら」
子どもが手を離すと、おれは体を抱きかかえてそっと地面に降ろした。
「ほーらな?」
「ありがとござます!」
「はは、礼儀正しくて大変よろしい。陸くんだっけ? 痛いとこない?」
「うん! おなまえはぁ?」
「よねづはじめお兄さんだよ〜」
「はしゃん!」
「これをあげるよ、サンタからのクリスマスプレゼント。きみにもあげる」
「やたぁ!」
「わぁ! ありがとうおにいちゃん!」
ボランティアサンタでもやるレベルでたくさんのサンタ人形をもらってしまったおれは、こうして子どもに渡り歩いている。
子ども好きな性格が幸をそうしたようで、子どもにはよく好かれる。
これもおれのよさなのだろうと、最近知った。
「____お前、もしかして亮雅か?」
退勤時間になり、帰り道を歩いていたときだ。
ひどく懐かしい背が見えてとっさに声をかけていた。
人違いではない。
「司郎……か?」
「ああ、やっぱり……! 亮雅じゃないか! うわぁーっ、こんなところで再会するなんてな!」
「……」
おれは中学以来の再会に歓喜を抑えきれなかった。
亮雅は、おれが憧れていた男だ。
間違えるはずがない。
司郎と呼ばれるのは、ずいぶんと久しぶりだ。
「久しぶり」
「なにしてたんだよ〜……! もう10年以上会ってないよな? 中学以来か」
「そうだな。お前こそスーツなんて着て立派になったじゃないか」
「あははっ、だろう? ……と、そっちの人は?」
見慣れないのは、隣にいる美人だ。
亮雅にはもったいないほどのきれいな顔立ちをした人がそこにいて、一瞬動揺した。
男の服を着ているし髪はショート、それにカバンも男もの。
「俺の連れだよ」
「はじめまして……」
「初めまして! ……あの子男、だよな? すんごい美人じゃん。え? 彼女?」
「男だよ」
正直驚いた。
おれも美形だと散々言われてきたが、この男は別格だ。
モデルでもやっていそうなほど上品で美しい。
「お前、光樹さんとはいまも仲良くしてんの? 光樹さん大好きっ子だったもんなぁ〜。おれは中退しちゃったからずっと疎遠でさ」
亮雅は光樹さんを尊敬していた。
だからいまでも仲がいいと思っていたが、亮雅は目をそらした。
「あ、もしかして会ってない?」
「……司郎、いまはその話はやめよう。優斗もいんだから」
「あぁ……そうだな、お連れさんごめんね。いきなりでびっくりさせたよ〜」
「……いえ、俺はべつに」
困惑している様子の連れの男。
美人なのに、かわいい。
何者なんだ。
「ぶっちゃけこいつ、怖いっしょ。中学んときよりは優しい顔つきになってるけど」
「知ったげするなよ司郎」
「すごく怖いです」
「ほら〜! 怖がってんじゃん!」
「毎日しゃべるだけで震えて震えて仕方ないです。助けてください」
「そんなに!? お前DV彼氏じゃん」
「ボケるな、優斗。本当にそうだと思われるだろ」
「そういう設定の方が場が和むかなって」
「明らか年下の子に気を遣われてんじゃん、おれら」
亮雅にはもったいないくらいに、優斗という男は惹きつけられる。
そして気が利く。
優斗くんにカフェを提案され、3人でゆったりくつろげそうなカフェへ足を運んだ。
聞けばどうやら同僚らしく、亮雅の部下だとのこと。
しかも恋人らしい。
亮雅はノンケだったが、優斗くんはノンケにもモテそうな美人だ。
美男美女のカップル。
納得でしかなかった。
「キミ知らない? 亮雅には昔すっげー好きな人がいたんだよ。恋愛じゃなくて兄に対する愛、みたいなもんだったけど。な?」
「司郎、俺がなにを言っても大声を出すなよ」
「ん、ん? おう、なんで?」
「なんでもだ。約束しろ」
「……わ、わかったよ」
突然に亮雅の表情が重くなり、空気の重圧を感じた。
先を聞くのが怖いほどに。
「…………あの人はもういない。どこにも」
「え」
「お前がいなくなってすぐに亡くなった。病気が原因だ」
血の気が引いた。
あんなに元気だった人が、病気で?
おれはなぜかそのとき、志野と光樹さんを重ねてしまった。
自分の大切にしたい誰かがもしもいなくなったら、おれはどうすればいいんだろう。
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