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第22話

「にしても、男の割にかわいい顔してんな。志野の好きそうな顔だ」 まじまじと至近距離で顔を見たのは初めてで、俺も驚きを隠せない。 本当に男なのか? こいつは。 「……ヤりたいなら、いいよ。おれは抵抗しない。げほっ、けほ」 「無理してしゃべんな、どこが痛い」 「ぜんぶ……」 「はぁ……一輝、今日はお前も付き合え」 「へいよ」 とりあえず、ここにいるとマズい。 意気消沈な肇を抱えあげ、一輝の車へ乗せる。 はたから見れば俺は誘拐犯以外の何者でもない。 それは肇も同じだろう。 自宅へ着く頃には肇の体はふるえ、意識も朦朧としていた。 傷口が浅いもののひどい有り様だ。 「持ち上げるぞ。痛くても我慢しろ」 「っ」 「あんた歳はいくつだ」 「にじゅ……ご」 「成人したばっかじゃねえのか。随分とまぁ、派手にやられたな」 冷静さを装いながらも、内心イラ立っていた。 「はは……おもしろ。おれはゴミといっしょだぁ……」 もうほとんど正気ではない。 玄関に運び、そっと肇を降ろすと冷めた瞳と視線が交わる。 「……名前と職業は話せるか」 「ん……」 肇はミニテーブルからえんぴつを取り、不安定に名前を書いた。 「米津司郎、か。職業は」 「体売ってる……」 「は、その歳でか?」 「高校、行ってない……仕事できない」 「嘘だろ」 我ながら大根役者だ。 肇が高校へ行ってないことは知らなかったが、男娼しているのは目に見えてわかる。 一輝はそんな肇を目にして、またソワソワとし出す。 「おいおい、志野。悪いことは言わねえ……こいつ返してこいよ。間違いなく後悔するぞ」 「……」 一輝の引き止めを無視して肇を部屋へ運ぶ。 後悔はしてもいい。 2年も探したんだ、この男を。 今さら手放せるか。 「……ヤる、なら、痛くして」 「はぁ?」 「ナイフとか使ってもいいから……痛いのが、いい。金はいらない……」 「あんたなに言ってんだ。怪我人に手出すかよ」 「……なんで」 「なんでもクソもねえ、見てるこっちが痛々しいんだよ。おい一輝っ、消毒持ってこい」 ああ、イライラする。 肇は憔悴しきっている。 それでも痛みを求めることしかできないほど、人の愛情を知らない。 腹立たしい。 「バカになっちまったのかよ、志野。そんなやべー病気持ってそうな男をかばう義理はないだろ。見てられねえよ」 「嫌なら帰ればいい。被害をこうむるのは一輝じゃないだろ」 「そ、そうだけどよ」 「……おれのこと、どうするの」 「あんたは家に泊まっていけ。どうせ住む家もないんだろう」 「ない、けど……金もない」 「なら余計にだ」 「住んで、いいの」 「ああ、金が払えないなら体で払え。怪我が治ってからでいい」 傷だらけの肇に手を出したいなどとは思わない。 他の男に傷つけられる肇を見るだけなのはうんざりだ。 「……お前ってほんと、お人好しなんだもんなぁ」 あの日助けられなかった自分に、ずっと引け目を感じていた。 力が弱い肇は子どもを必死に守っていたのに、俺はただの傍観者。 守りたい。 もう二度と肇を危険な目に遭わせてたまるか。

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