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第29話
「志野〜……雪見さんたべよ?」
「真冬だぞ」
「冬にたべるアイスっておいしいらしいよ、亮雅が言ってたんだ。こたつでアイス食べるのが流行りって」
「騙されてんな」
「こたつって温かいの?」
いつも質問したいものだらけだ。
最近スマホを自分で契約して持つことができたが、いまいち使い方がわからない。
志野に手取り足取り教わってやっとメールを打てるレベルだ。
試しに志野のスマホ宛にかわいいクマのスタンプを送る。
すると既読の文字が現れ、すぐにスタンプが返ってきた。
おれが使っているものよりゆるふわでかわいいウサギだ。
「なにこれ、かわい! 志野のくせに!」
「微妙にディスんなよ。50円で買える」
「えーっ、おれもほしい」
「さっきの質問、お前こたつほしいか?」
そう言いながら志野はスマホにプレゼントを贈ってきた。
いま話していたスタンプだ。
何から何まで貢いでくれる志野に、どんどん甘えてしまいそうな自分が怖い。
「使ったことないからわかんない。亮雅に聞いたら一生出れなくなるって言われたから、気になってはいるけど」
「出れなくなるな、特に寒い日は」
「そんなにすごいの?」
「ああ、暖房の前から離れられなくなるようなもんだ」
「……」
また嫌な記憶がよみがえる。
おれの相手をしてくれた人間はみんな横暴だった。
寒くて耐えられないときでも、お前は性処理の道具だからと外に投げ出されるばかりだ。
だからおれにとっては暖房が効いている時点でここが天国だ。
「おれ、志野になら殺されてもいいな」
「あのなぁ……頼むからひとりで抱えようとすんなよ。いちいち大げさなんだよ、肇は」
「だっておれからしたら神さまだよ」
「そうかもしれねえけど、お前の場合はいままで出会ってきた人間がクズすぎるだけだ。まともな出会いができてればもっと気楽に考えられる」
「……志野ほど優しい人なんて絶対いない」
「俺が優しいと思ってる時点で危険だぞ」
「優しいよ、宇宙一」
「純粋かよ……俺は肇を自分のもんにしたいだけだ、優しくねえよべつに」
「志野がしたいこと全部する」
「じゃあ自分を大事にしろ」
「そんだけ?」
「俺の一番の望みはそれだよ」
よく言われる"自分を大切にする"という感覚がおれにはいまいち分からない。
常に他人優先で生きてきたからだろう。
どうして生きるのが自分を大切にすることなのか、むしろ知りたい。
「……」
「どうした?」
「……いや、なんでも」
「肇、前にも言ったが言いたいことがあるなら隠さなくていい。言ってみろよ」
「…………どうやったら自分大事にして生きれるのか、わからないから教えてほしい」
「わからないってのは、大事にする基準の話か?」
「それもある、し……ずっと相手が喜ぶことしか考えてきてないから、自分が喜ぶこととかおれも知らないんだ」
「それは経験だな」
「経験?」
「やったことないもんでも片っ端からやってみれば、自分の欲も見えてくる。それに肇は子どもや友人と遊んでるとき楽しそうな顔をするだろ。あれは肇自身が楽しんでると俺は思う」
「……うん、たしかに楽しい。亮雅と会えたのも優斗くんや陸と遊ぶのも好きだよ」
「ならそれに気づけただけで進歩だよ。あとはとにかく恐れずに遊んでみろ、俺がいくらでも支えてやる」
「…………」
遊ぶ。支える。
聞いたこともないほど新鮮な言葉ばかりだ。
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