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「うーん、なんでこれで男なんだ?──しょうがないな。じゃあ、友だちだ」  ぱっと右手を出す。握手を求められているらしい。  あの小っ恥ずかしい言葉といい行動といい、普通この年齢で出てくるものなのか。いったいどういう育ち方をしてきたんだろう、と、ちらっと考える。  でも、悪い気はしなかった。自分のコンプレックスである髪と瞳を悪気なく褒め、友だちになろうと言うコなんかこれまでいなかった。 「わかった。じゃあ、友だち」  オレはその手を恐る恐る握り返した。 「俺の周りには、親に言われてご機嫌をとる奴か、影であれこれ言う奴ばかりだ。子どものくせにさ。馬鹿みたいだろ。お前はさ、なんか違うって感じたんだ。こんな、かわいー奴今まで見たことない」  冬馬もオレと似たようなことを感じてきたんだ。そう思うとなんとなく親近感が湧いた。  しかし。 ( かわいーヤツって? )  オレは女のコじゃないし、可愛いと言われても嬉しくないので、そこは否定したい。 「あっ、そう言えば」  話が途切れたので、さっきからなんとなく感じていた違和感について、聞いてみることにした。 「何?」 「この間会った時と今日、話し方違くない?この間は、きみのお母さんと同じような話し方だったよね」 「ああ。俺の母さん京都の出身で、今もお店関係で良く行くから、もうずっとあの喋り方なんだ。俺も母さんといる時は不思議とああなるんだよなぁ」 「ふうぅぅん」 「お前、今、かわいーとか思っただろ」  妙に長い相槌のなかに、オレの心を読み取ったらしい。 「え、あ、うん。かわいーと思ったけど」 「俺は男だから可愛くなくていい」  と、ややムッとして言うので 「え、ボクのことは、可愛いって言ったよね」 「お前はいいんだ。ほんとに可愛いんだから」 「えぇぇぇ~」  ── というようなやり取りがあったせいかはわからないが、冬馬はこの先オレの前では、けして京ことばは使わなかった。

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