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   ここに来るまで、大人がいないことに少し不安があった。しかし今は、冬馬と一緒なら大丈夫だと思えた。そう思えたら今度は、初めて一日中、それも五日間も冬馬とふたりでいられるということに、どきどきとわくわくがドッと押し寄せてくる。  冬馬の姉が確認してくれたように、食料品備品等は事前に揃えてあった。  車で少し下ったところ住む管理人が、いつでも快適に過ごせるように、定期的に掃除や備品の補充をしているのだという。  オレたちは大人のいない時間を自由気儘に楽しんだ。  広い屋敷を隅から隅まで探検したり、森の中を一日中遊びまわったり、朝方まで起きてて昼過ぎまで寝てたりと、大人たちが来ないうちに好きなことをやりつくそうとした。  オレはそんな楽しい時間をカメラに収めた。 **  オレが持っていった一眼レフのフィルムカメラは、昨年夏ウィーンに行った時に、叔父 ── 父親の弟がくれたものだ。  彼はカメラマンでウィーンを拠点にしていた。ウィーンは、彼の父 ── 写真でしか知らないオレの祖父の故郷だ。  叔父に会うのは八年振りくらいで、顔は余り覚えていなかったが、ひとつだけ強烈に記憶に残っていたことがある。  彼の瞳が、兄であるオレの父親と違い、オレと似たブルーグレイだということ。再会して変わらぬその瞳を見てオレは、彼に親しみを感じた。  叔父はそのカメラをとても大事にしていた。仕事で使うものはもう既に違うカメラだが、それは初めて自分で手に入れたもので、ずっと大切に仕舞われていた。そんな思い入れのあるものを受け継いだオレも、それを大切にしようと決めた。  そしてウィーン滞在中、叔父にそのカメラの扱いを教えて貰い、下手くそながら撮った写真は、エアメールで冬馬に送った。  ── これは、オレの未来へと続く、小さな種となった。 **  この五日間は、ふたりで食事も作った。朝はパンと野菜。昼はレトルトか冷食。時には朝昼が兼用になった。  夕食だけは少し時間をかけ、ちゃんと作ろうと言ったのは、冬馬だった。  家で料理をしたことがなかったオレは、かなり不安だった。家では食事の支度はすべて家政婦さんがやってくれる。  冬馬の家も同じようなものだろうと思ったのだ。  しかし彼は思いの外、慣れた様子だった。不慣れで、もたつくオレに呆れもせずに丁寧に教えながらも、手際よく作っていた。  見た目も良かったが、味も本当にオレたち(主に冬馬だが)が作ったのかと思う程美味しかった。  自分たちだけで過ごしたいと親を説得した手前、食事もちゃんと作れることを彼は示したかったらしい。  橘家のシェフに習ったのだと、初日の夕食後にちょっと決まり悪そうに言っていた。それでも、ほんの二、三日でこれだけできるようになったことに、オレはひどく感心した。

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