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「何ぼーっとしてるんだ。そのままじゃ風邪ひく。あ、そうだ。こっちの風呂に入ろう」
各部屋に付いているバスルームとは別に、数人でも入れる広いバスルームがある。
オレたちがそこを使うのは、ひと夏に一度くらい。あとは女性陣が一人ずつ使う上に長風呂なので、オレたちは我慢できず自室で済ましている。
冬馬がキッチンのところにあるパネルで操作してお湯を張り始めた。
「一緒に?」
「いつもそうだろ」
不思議そうな顔をするのも無理もない。今までひと夏に一回の貴重な機会は二人で入っていたのだから。
「明日はもうみんなも来るし、今日しかないよ。それにいつも入れたとしても、急かされてゆっくりできなかっただろ。今日はゆっくり入ろうぜ」
そう言って、バスルームに向かって歩きだす。
咋夏はオレたち家族は来ていない。一緒に入るのは二年振りだ。
指先で触れた唇の感触や、掴まれた腕の熱さが、何故か不意に甦り、心臓がドクドク言い始める。
( オレ……なんか変かも )
冬馬の後ろを歩く足が重い。
開けっ放しの脱衣所の前まで来ると、冬馬が濡れたTシャツを脱ぎ、洗濯機の中に放り込んだところだった。そして、何の躊躇もなく下もすべて脱ぎ、同じく洗濯機に放り込む。
オレは眼を反らした。正視できない。今まで同じクラスにはなったことがなく、水泳の時間も同じにならない。水着姿すら見慣れてないというのに……。
すでに身長は170センチ近くあり、綺麗に筋肉のついた肉体だった。もともと年齢の平均を上回る体格だったが、二年前とはまるで違う。とても小学生とは思えない。
「詩雨?先に入るよ。お前も早く脱いだほうがいい。」
そう言って浴室に入って行く。
微動だにしないオレを不自然に思ったろうか。
自分自身でもよく解らない感情が沸き上がっていた。何故こんなに恥ずかしい気持ちになるのか、二年前はこんな風には思っていなかった筈なのに。
オレはやっと脱衣所に入りドアを閉めると、のろのろと服を脱ぎ始めた。
「詩雨ー?」
浴室からオレを呼ぶ声。
「うん、今行く」
オレは意を決して内に入ると、既に冬馬は湯船に浸かっていた。大きめの浴槽にお湯はまだ、座っている冬馬の腹ぐらいまでしか溜まっていなかった。
なるべくそっちを見ないようにして、まずシャワーを浴び身体と髪を洗った。
ゆっくり、ゆっくりと。
「詩雨、いつまで洗ってんだ。早く来いよ」
「あ、うん」
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