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 オレは浴槽から飛び出した。その時お湯が跳ね上がり、冬馬の顔にびしゃっとかかった。  彼の「わっ」と言う声と、その後の「おいっ、詩雨」とオレを呼ぶ声が聞こえたが、構わず浴室の外へと出ていった。 ( 大丈夫。なんともなってない。冬馬には、きっと気づかれてない)  ピシャッとドアを閉め、はあはあと息を弾ませる。 ( とにかく、服着て………… )  オレは辺りを見回し「はあ~~」と盛大な溜息をつく。 ( そうだった。そりゃそうだ )  びしょびしょの服のまま、何も持たずにバスルームに来たのだ。替えの服があるわけがない。仕方なく棚に常備してある大判のバスタオルを巻いた。  廊下にもリビングにも階段にも、通ったあらゆる場所にオレは水の足跡を残していく。それは、今回使わせて貰っている二階の部屋の前まで続いた。  部屋に入るとオレは床にへたり込んだ。走っている間にタオルが擦れたせいなのか、股間にむずむずするような感覚を覚えた。その部分を覆っているタオルをそろっと上げ、そしてまた閉じた。 ( ………… )  オレのそこは形を変えつつあった。冬馬に握られた時の予感は外れていなかった。  オレはまだ精通を迎えていない。知識としてはある。学校で習いもしたし、周りの男子たちがそういう話をしているのを小耳に挟むこともある。今はそういうことに興味を示し始める年頃なのだろう。  ただオレにはたいした興味もなく、そういった意味で性器に触れたことはない。 ( 冬馬は……どうなんだろう )  きっともう精通を迎えているのではないか。自慰の経験もあるかも知れない。 ( オレよりも大きなアレが勃ったりしたら…… )  想像した途端、身体がカッと熱くなった。それと共にその部分が少しずつタオルを押し上げていく。 ( 何?オレ……冬馬で……? )  怖くてタオルを上げて、確めることができない。  けれど、感触が ── 今までに感じたことのない何が股間から這い上がり、身体中に、それから脳内にじわりと広がっていく。  その感覚に戸惑いながらも身を委ねようとした時、トントンとドアを叩く音が聞こえてきた。  そして、声。 「詩雨、入っていい?」  冬馬だ。 「ダメっっ!!」  オレは慌てて叫んだが、もう既にドアは開いていた。部屋は内側からも鍵をかけられるが、オレも冬馬もかける癖がなかった。 「えっ?」  強い拒絶に冬馬は一瞬固まった。 「もう……返事聞いてから、開けろよ~~」  オレの口からはそんな情けない声が漏れる。  ドアが静かに閉められた音がした。オレは後ろを振り返ることもできず、しゃがみ込んだまま。  近づいてくる、スリッパの音。

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