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オレたちは、中等部に進級した。
進級式の日、新しい制服を着た冬馬は、更に大人っぽくなった。身長は百七十を越した。
そんな冬馬を見て、オレの胸はまたトクンと鳴る。
「お前、また綺麗になったな」
そんな軽口さえ真に受けてしまう。
「冬馬こそ、その制服良く似合ってる」
と、ウィンク。軽口には軽口で返す。オレの胸が騒めくのを悟られないように。
「あ、オレ、明日からまた学校来れない。二か月くらい、ヨーロッパ巡りする」
「そうなのか?進級したばかりなのに」
「父さんたち、ほんと勝手。オレ独りで残ってもいいのに」
冬馬が慰めるようにポンポンと頭を撫ぜる。
「帰って来たら、連絡くれ。それから、また写真送って。楽しみにしてる」
「うん」
そんな会話をして別れた。
── あの夏から、半年以上が過ぎた。
オレの生活はあの後、更に忙しさを増し、冬馬に会えない日も多かった。
会っても、あの日のことはお互い一度も口にはしなかったし、もちろん再び同じ行為をすることもなかった。
冬馬にとっては単なる事故。好奇心が過ぎただけのこと。
オレにとっては ── 。
自慰を覚えたオレのオカズは、アイツのエロい顔。甘い声。オレのに触れる熱い掌。隅に追いやった筈のあの日の出来事が、何度も何度も甦ってくる。
オレの心は ── 変わってしまった。いや、気づいてしまったのだ。
時折感じていた“ときめき”や冬馬と“居たい”という想いが、もう既に友だちや兄弟みたいな関係を越えてしまったことを。
もちろん冬馬にそのことを言うつもりはない。
男同士の恋愛もあるということは知っている。だからといって、冬馬が受け入れてくれるとは思えない。避けたり、からかったりする男ではないとは思う。
でも、まったく態度が変わらないとは言い切れない。告白して今の関係が壊れるのが、オレは、怖い。
オレの生活が慌ただしいのは、冬馬と距離を置くのに好都合かも知れない。冬馬にオレの気持ちを気づかれずに済む。
でも ── 距離を置けば置く程、冬馬への想いは募り、どっちにしても辛いのはオレの方だった。
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進級式の翌日、カンナ交響楽団はウィーンへと飛んだ。今回はここを拠点に、ドイツ、イギリス、それから母のルーツであるフランスなども巡る長期の演奏旅行だ。
カンナのみでの演奏会もあるが、交流のある楽団とのコンサートも開かれる。
オレは短期の海外での活動は何回か参加させられたが、こんなに長期なのは初めてだった。世界に通じる“カンナ交響楽団”にする為に、今まで地道に繋がりを作ってきた両親の努力が報われる演奏旅行だ。しかし、オレにとってはかなり迷惑な企画だった。
ウィーンに住む叔父もまた楽団の為に力を貸してくれている。コンサートのパンフレットやポスターなどの製作に携わったり、SNSに上げて“カンナ交響楽団”の名を広めてくれている。
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