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オレはまた叔父に撮影のテクニックを教わった。会う度に少しずつ教わる。だんだん写真を撮るのが楽しくなってきていた。
この演奏旅行での自由な時間は、学校の勉強と写真の撮影に使った。
カメラを持ってあちこち歩き回り、撮った写真は約束通り冬馬に送った。
( 冬馬は今何をしているのかな。ちゃんと授業に出てるのかな。独りで秘密基地にいるのかな。── オレのこと、少しは考えてくれているかな )
遠く離れていても、何をしていても、頭に浮かぶのは冬馬のことばかりだった。
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日本のGW明けに、大学に用事があるという天音に便乗して、オレも一時帰国した。
冬馬にはまだ連絡していない。びっくりさせてやろうと思ったのだ。
あの甘い声で、会いたかった、と言ってくれるだろうか。お前のピアノを聞かせてくれ、と言ってくれるだろうか。そんな勝手な妄想をして、胸をときめかす。
帰国した翌日の昼休みに冬馬のクラスを覗いた。しかし、冬馬の姿はなかった。
( あれ?今誰も出て来なかったよな?サボりかな )
授業が終わる前からオレはここにいて、チャイムがなってすぐにドアの小窓から覗いたのだ。
秘密基地かも知れないと思ったが、念の為一度食堂にも寄った。
大勢の生徒や教師で賑わっていたが、やはり冬馬はいなかった。どれだけの人がいても、オレはすぐに冬馬を見つけられる。見間違えやしない。
( やっぱ、あそこかな。天気もいいし )
オレは食堂を出て、建物からどんどんと離れて行く。木々や花壇が整然と並ぶ場所では外で昼休みを過ごしている生徒もいるが、そこも通り過ぎて“聖愛の森”へと入り込む。
緩やかな坂の勾配が次第にきつくなり、登り詰めた先にオレたちの“秘密基地”はある。
オレたちの ── 。
( あれ? )
ぽっかりと空いた空間に幾つか切り株がある。オレたちはよくそこに座って、話をしたり思い思いの時間を過ごしたりしていた。日射しが強い日はそこを避け、日陰を作る大きな木の根元に座る。
そこに人がいた。太い木の幹に寄りかかり、本を読んでいる少年。
( 誰だろう……。ここ、他のコにも見つけられちゃったか )
自分たちとは関係のない生徒かと思った。
しかし、もう一歩先に行くと、その少年の太股に頭を載せて寝そべっている男が見えた。
── 冬馬だった。
そおっと息を潜めてもう一歩踏みだし、木の陰からふたりを眺めた。向こうからは見えないはず。
それに冬馬は ── 眼を閉じている。眠っているようだった。
( なに……?これ、どういうこと。アイツ……いったい誰なんだ )
まったく知らない顔だった。
もともと冬馬は誰かと一緒にいることはない。初等部に入学してから一番近くにいたのは、他でもないオレだ。そのオレがまったく知らない顔。
中等部に進級した翌日から日本を離れた。そのひと月ちょっとの間に知り合ったということか。
(編入生?)
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