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多額の授業料と寄付金が必要な聖愛学園は、上流階級の子女しか通えない。その為敷地の割には生徒数は少なく、初等部に入学して六年も経てば、同学年の生徒の顔を見たことがあるかないかくらいの判断はできる。
聖愛に編入してくる者は稀だが、あの少年はオレがいない間に編入してきたのかも知れない。
たったひと月の間に、あんなに親しげに?
しかし、オレがそうだったように、冬馬が認めた人間なら急速に親密になることもありうる。
( でも……これは。なんていうか…… )
『一枚の絵画』── そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
そう。煌めく緑のなかにふたりがいるその風景は、まるで完璧な一枚の絵画のようで、けして他が入ることは許されない。
そんな風に思えて、オレは耐えられなくなり後退った。
( オレといる時と、まるで雰囲気が違う…… )
**
それから三日間、再び日本を離れるまで、学校側には帰国したことを知らせず、ふたりの様子を見ていた。
( これじゃあ、ストーカーだな。オレ、我ながらキモい )
オレがストーカー行為をしている時、偶然桜宮夏生に出くわした。昼休み、食堂の窓からふたりを覗いていた時、ちょんちょんと肩を叩かれた。
「あれ、柑柰くん。戻ってたんだ?先生には六月くらいからって聞いてたけど」
「あ、桜宮。うん……ちょっとだけ帰って来たんだ。明日にはもう戻るから……先生と、それから、橘にも内緒な」
オレは自分の口の前に人差し指を立てた。
「うん?」
桜宮夏生とは初等部の半分をクラスメイトとして過ごした。まだ友人と呼べる程ではないが、冬馬以外ではそこそこ話をする方かも知れない。
彼と冬馬は特に親しくはない。顔を知っていて、あとはオレと仲が良いくらいの認識だろう。それなのにこんなお願いをされるのを少し不思議に思っているに違いない。そんな顔をしている。
冬馬には絶対に知られたくない。だから、念の為だ。
オレは、ちょっと……と言って、彼を食堂から少し離れたところに連れて行った。そして、冬馬と一緒にいる少年のことについて訊ねてみた。
名前は、石蕗秋穂。冬馬のクラスに編入してきた。冬馬が教室で倒れた彼を横抱きにして廊下を歩いていたことは、中等部ではかなりの噂になったということだ。
その後から、ふたりが一緒にいることが多く見られ、まるで冬馬が秋穂を守っているかのようだ ── というのは、夏生の見解だ。
「ありがとう。また帰って来たらな」
夏生に礼を言い、オレはまたふたりを追った。
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