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Side HARU ─ 1
── 綺麗なひとだと思った。
作りものめいた黒い髪。強い意思を感じる黒い瞳。色白で何もつけてなさそうなのに紅みのある唇。口許のほくろがセクシーだ。
長い足を組んで椅子に座っているが、すらりとしていて割と背は高めのようだ。
( 女……?いや、男かな。ここにこんなモデルいたっけ? )
一度見たら忘れられない類いの人間というものがいる。彼はそういう類いの人間だろう。
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ノックもせずに入った桜宮モデルエージェンシーの社長室。
まだ大学生だが、来春の卒業を待たずして社長業に就いた桜宮夏生は、俺の従兄弟だ。昔から仲が良く、俺にとっては兄のような存在だ。その気安さから、社長室にいきなり飛び込むことは、これまでもよくあった。
しかし、この時には先客がいた。
俺も一応はこのモデル事務所に所属している。仕事といえば、急にキャンセルになったモデルの代行くらいだが。だからここにいるモデルはほぼ把握していた。
部屋に入った瞬間から俺は彼から眼を離すことができずにいたが、彼の方も何処か驚いたような表情でじっと俺を見ていた。
「ハル、ノックぐらいしろ。いつも言ってるだろ」
夏生に軽く窘められる。
「ごめん、お客さんがいるとは思わなかった」
「誰?モデルさん?」
くすっと彼が笑う。声は男にしてはトーンが高めでクリアな感じだ。もう先程の驚いたような顔は引っ込んでいた。
「従兄弟の遥人。今はドタキャンモデルの代行くらいかな」
夏生は俺を一流のモデルにしたいと思っているが、俺はそれ程自分に価値を見出だせない。ただ背が高くて体格の良い男なんて何処にでもいるだろう。
俺がそう考えているのを夏生は知っていて、今は静観している。でも時々こうやって、ちくっとつついてくることがある。
「高校生?」
「高一だよ」
答えたのは夏生。
「高一かぁ。わっかいなぁ」
組んだ足を直し、椅子から立ち上がる。そんなちょっとした仕草も綺麗に決まっている。
( 若いって、自分は幾つなんだよ。そんな上じゃないだろ )
そんなことを思っていると、彼は俺の近くにまで歩み寄って来た。そして、ぐるっと俺の周りを回りながら、「ふ~ん」とか「ん~」とかいう声を漏らしている。
( なんなんだ、いったい )
最後に真正面に立ち、上目遣いに俺の顔をじっと見る。
( 顔、近い )
女相手でもないのに、顔が綺麗過ぎてドキドキする。こんなに近くまで顔が迫るということは、予想通り背は高めのようだ。
「おまえ、いいな。オレのモデルにならない?」
「は?」
「今卒製どうしようか考えてるんだけど。近々沖縄に撮影行こうと思ってるだ。おまえ、ついてこいよ」
かなり唐突で強引な申し出と、その容姿に全く合っていない言葉遣いに面食らう。
「バイト代がわりに、旅費とか食費はオレ持ちで。ど?」
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