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 普通だったら初対面の人間に言う言葉でもないし、誘われる側も易々と応じはしないだろう。  だけど ── この瞳に俺は逆らえないものを感じだ。  それに。 ( なんか、初めて会ったような気がしないんだけど…… )  脳裏に不鮮明なイメージが浮かんで、すぐに消えた。 「いいよ。学校が休みの日なら」 「えっ?」  今度は彼の方が驚いたような声を上げる。断られるのを承知の申し出だったのかも知れない。  彼はにかっと笑った。 「OK!おまえ、そんな無愛想な顔してるけど、意外とノリのいい奴だな。オレ、シウ。詳しいことは夏生に連絡するよ」  親指で夏生を差す。 「じゃあ、夏生。オレ行くわ。早速準備しなきゃ。またな」  『シウ』は嵐のように去っていった。 「シウ?」  ほんの少しの間かも知れないが、一緒に過ごす相手に自己紹介がこれだけとか。 ( 名字なのか?名前なのか? )  字すら浮かんでこない。 「夏生の友だち?」 「ああ、高等部まで聖愛にいた。もしかしたらおまえも会ってるかもな」  何処か含みのある言い方だ。夏生も何故か彼の素性についてはさりげなくスルーした。 ( 卒製?大学生か。夏生と同い年ってことか )  結局分かったのは、それぐらいだった。 **  二週間後。十一月初めの金曜日。  学校から帰宅すると夏生が待ち構えていて、空港まで送って貰った。今日までの繋ぎはすべて夏生がしていた。  那覇空港に着いたのは、もう二十時過ぎだった。シウさんは空港に降り立った時から夜の景色を撮り始めた。  デジタルとフィルム、二台のカメラを使用した。カメラのことはよくわからないが、プロのカメラマンが持っているような高価そうなものだった。 (本格的だな……)  そう感心していると、俺にカメラを向け、夜景をバックにシャッターを切った。  突然のことで、俺はたぶん変な顔をしていただろう。 「そんな突然っ」 「いいの、いいの、気にしないで。テキトーに撮るから」  にこにこ笑いながら手を振る。そして、再び夜景にカメラを向ける。  俺はほっと胸を撫で下ろす。彼の申し出を引き受けてここまで来たものの、やっぱりかなり自分は緊張しているのだと感じた。  空港から遠くないホテルに宿泊をした。  チェックインの折り、宿泊カードに記入した名前。特に見るつもりはなかったが、彼の頭越しに見えてしまった。 ( ……柑柰詩雨。柑……なんて読むんだ?カンかな。『シウ』は名前だったのか )  そう考えて、あれ?と思う。 ( カンナシウ?何処かで聞いたことが…… )  その記憶を辿ろうとしたところへ 「ハル、ハル、名前書いて」  そう話しかけられ、何も掴めないまま思考は中断。言われるまま同行者の欄に名前を記入した。 「藤名遥人っていうのかぁ」  横でシウさんが呟く。 ( 名字すら知らないのって、どれだけ俺のこと興味ないんだよ。自分から誘ったくせに )  

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