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翌日早朝にチェックアウトをした。
俺が起きた時にはシウさんはもう身支度を整えていて、昨晩の酔いは残ってはいないようだ。
那覇から車で二時間程かかる、観光客が少ない場所が今日の目的地だという。
レンタカーを借りた。勿論運転はシウさんだ。どちらかといえば、乗せて貰う方のが似合いそうな彼だが運転はかなり上手かった。
片手でハンドルを握り、片手は自分の膝や窓枠をトントンと指で叩いている。
( そういえば…… )
今そうしているのを見ていて、俺が今までも同じ場面を見ていたことに急に気がつく。
昨日の飛行機の中でも、夕食の時もどちらかの手がトントンと動いていた。ただ叩いているのではない。ピアノを弾くような流れるような動き。
(本人、無意識みたいだけど……)
無意識に常に動いているのは、相当ピアノをやっていたからではないか?
白く細い指が鍵盤の上を滑る ── そんな光景が頭に浮かんだ。まるで見たことがあるみたいに?
(んー?)
ここに来てから、ずっと脳内をもやもやと浮かんでは消える何かがある。ここに来てから ── というより、シウさんに会ってからかも知れない。
海に面したそのホテルに着いた頃には、もう午後三時を過ぎていた。
直行なら二時間くらいのはずが、シウさんが気になるところで車を停め、撮影をしていたので実際にはだいぶ時間がかかった。
青い空や広い海。緑と色鮮やかな花々。東京では見られない開放的な景色に、それまで感じていたもやもやが吹き飛ぶ。
シウさんとは一度会ったきりで、素性もよく分からない者同士だということもどうでもよくなった。
昨日言っていたように今日の部屋は別々だった。ごく普通のシングルの部屋だったので、なんとなくほっとした。
三十分程それぞれの部屋で休んでから早速撮影に入った。
広くて洒落たラウンジ。南国の花が咲き乱れる庭園。他に誰もいないプールサイドでは、トロピカルな飲み物を片手に。
シウさんの撮る写真は基本、人物は中心ではないという。一応俺も事務所に所属しているので、顔は分からないように撮影するというのは、彼からの提案だった。夏生や俺への気遣いが窺える。
彼の覗くファインダーは、俺をどんな風に捉えているのか。
全く想像がつかない。
昨日から景色も合わせ相当数撮影をしているので、もしかしたら俺は使われない可能性もある。
そう思うと、シウさんに自分自身が選ばれなかったような気がして、少しだけ胸が傷んだ。
プールサイドからも外側に出られる扉があった。この先の階段を降りると、ホテルのプライベートビーチに辿り着く。
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