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窓は数日ひらき、数日閉じているを繰り返している。
今日はいるかな、いないかな、と一喜一憂する俺。そんな人間がいるなんて、あの人は知らないだろう。
自分のビアノの音色を聴きながら、泣いている俺のことなんて。
彼のビアノの音 は、次第に変わっていった。
最初の頃のあの楽しそうな音は陰を潜めた。
相変わらず愛おしげに弾いているのだが、何処か哀しげだ。そうかと思えば、胸が苦しくなるくらい激情的な時もある。
それを聴きていると酷く胸が熱くなり、俺の眼からは知らないうちに涙が零れていた。
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俺が初等部の三年、あの人が中等部の三年の夏休み明け。この頃から、もうほとんど窓はひらかない。
俺は彼の音に、彼自身に飢えていた。
十一月のある日。
今日もひらかない窓を見て、がっかりしながら寮へと帰った。
( 夏生のところにでも行くか )
従兄弟の夏生も寮住まいで、余りあの窓が開かなくなってから、時折遊びに行くようになった。
夏生の部屋をノックすると、彼は今日も快く迎え入れてくれた。
「夕食までだからな」
「うん」
寮の食事は初等部から始まる。午後六時からだ。
部屋に入り、一人がけのソファーに座る。前のテーブルの上に、一枚のチラシ。
「クリスマス・コンサート」
まず最初に眼についた文字を口にする。
「カンナ……交響楽団?」
「うん?」
夏生が湯気の立つマグカップを両手に持って立っていた。テーブルの上に置く。ひとつはコーヒー。ひとつは俺使用のココア。
「ああ、それ」
向かいのソファーに腰かける。
「友だちが出るんだ。初等部から何度か同じクラスになってる、音楽院の生徒。カンナちゃん、知ってる?」
彼はトントンと紙の上を指で叩いた。
( カンナちゃん……? )
どきんっと心臓が軽く音を立てた。夏生が言っているのは“あの人”のことなのか?夏生とあの人は友だちなのか?
『ピアノ 柑柰詩雨』
夏生が指で叩いた場所にその名前はあった。
「カンナシウ。明るい茶色の髪で、いつも紅い紐で結んでる男子。聖愛でもだいぶ目立ってると思うけど」
「う……ん」
自分の秘密をも気づかれそうで、はっきり知っていると言えなかった。それでも、夏生は何か感じ取ったようだ。
「十二月の二週目の土曜だけど、一緒に行く?」
「いいの?」
気づかれたくないと濁した割には、夏生の提案に、自分でも驚く程喰い気味に答えてしまった。
「もちろん」
満面の笑みを浮かべる夏生に心の内を全て知られているようで、ばつの悪さを感じずにはいられなかった。
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