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 春発信の、『メンズ(そう)』と『ジュエリー・ラルムトランジュ』のコラボ用のCMは、既に出演モデルが決定していたが、コレクションを見に来ていた柴崎が、“ハル”を推してきた。撮影の日程も既に決まっていて、それが今回の沖縄の撮影と被ってしまった。 「オレはまだもう少し撮りたいから、明後日帰るよ。年明けにまた日程調整しておくから。CM楽しみにしてるよ」  シウさんは空港で、そう言って見送ってくれた。 **  CM撮影は無事終了し、俺は年明けすぐに、写真集の撮影が始まると思っていた。    しかし──。  体調を崩したというシウさんからの連絡が、社長の方に入った。  撮影が再開されたのは、それからひと月後のこと。  久しぶりに会ったシウさんは、かなり痩せていて顔色もよくなかった。沖縄まで行ける程体力が回復しておらず、近県の海で撮影することになった。  何があったのか。  Citrus のオーナーが、橘冬馬から姉の華恋(かれん)に代わったことと関係があるのか。  悶々として撮影に望んだが、カメラを構えたシウさんは固まったまま動かなかった。  それから数度、日を改め場所を変えたが、また同様のことが起こる。しかも、会う度に体調の悪さが増していくのだ。  ──写真集の発売は、延期になった。  そして。  四月の初め。 「すまない。カメラを持つことができない」  桜宮モデルエージェンシーの社長室で、正式に今回の依頼の断りを申し出た。 「他のカメラマンを紹介する。人物の写真集の制作によく携わっているヤツだから、きっといいの作ってくれると思う ── ごめんな、ハル」  泣きそうな顔で言うシウさんに、否とは言えなかった。  シウさんの手から離れた写真集は、七月に発売された。  絢のCM、タチバナコレクション出演や、カメラマンのネームバリューで、思った以上に売れ行きは好調だった。 **  シウさんとはあの日から会っていない。  写真集の撮影の合間も、LINEで連絡を入れていた。  体調はどうなのかを尋ね、そして最後に食事に誘ってみたり、家に寄っても良いかなど、会いたい旨を押しつけがましくならない程度につけ加える。  しかし、返事はいつも「ごめん」だった。  最初の頃は、俺の様子も訊いてきたが、次第に文字数が減り、そして、「ごめん」のみとなる。  「ごめん」という文字を見る度に、あの日の泣きそうな顔が浮かび、胸がぎゅっと痛くなる。  だから、俺はもう連絡をするのはやめた。最後に、写真集が無事完成したことを告げたあの日から。  

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