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 それでも、時折、シウさんの家の前まで来ては窓を見上げる。  三階の彼の部屋の窓。  まるで、聖愛にいた頃のように。  でも、あの頃とは違う。窓は開け放たれてはいないし、あの美しい人が顔を出して手を振ることもない。 ( また、ストーカーに逆戻り…… )  俺はここに来る度、自嘲する。  でも、幼い頃のように、彼を忘れることはしない。いつか、会ってくれるのなら、絶対に待つと決めた。  『橘冬馬』  シウさんがこうなったのは、たぶん彼がいなくなったことに関係している。  空港で別れ、シウさんが東京に戻ってから、何か重大な出来事があったに違いない。シウさんの心が壊れてしまうような何かが。  だから、橘冬馬に似ている(らしい)俺に、カメラを向けることができない。  “タチバナ”のコレクションには再び声がかけて貰ったが、スタッフはおろか新オーナーの橘華恋も、誰も橘冬馬のことは口にはしない。  ただ変わらず、ショップのウィンドウには、彼のデザインした服が飾られている。  『何があったのか』『どうしてこうなったのか』『橘オーナーは何処へ行ったのか』  そして ── 『シウさんはどうしているのか』  時折、夏生にやんわりと訊いてみる。しかし、録な答えは返ってこない。  『知らない』『わからない』『詩雨とは連絡が取れない』  本当に知らないのか、或いは何か知っていて俺には言わないのか。 **  シウさんと会えなくなって、二度目の冬が来た。  今年も参加した“タチバナ春夏コレクション”を終え、一息吐くことなく、社長と来年の仕事の打ち合わせをする。  そんな時だった。  テーブルの上に置いてある夏生のスマホから、ピコンと通知音がした。話をしながら手に取り画面を見るなり、夏生の話がピタッと止まる。  そして、酷く驚いたような表情で。 「……詩雨が、来る」  そう、呟いた。 「え?」 「サクラ・メディア()()ルディングス主催の年末パーティーに来るって」  サクラ・メディア・ホールディングス主催の年末パーティーは、毎年クリスマス前に行われている。クリスマスも兼ねているので、かなり華やかで大規模なパーティーだ。招待客も多種多様だった。  親族の俺にも声がかかるが、自分の意思が通るようになってからは行っていない。 「今年は、ハルも行くだろ」  あれだけシウさんのことを尋ねていたんだ、そう思うのも当然だろう。  しかし、俺は即答できなかった。  体調は良くなったのだろか。橘冬馬への想いは薄れたのだろか。  ── 俺と顔を合わせても大丈夫なのだろうか。 ( 俺には、連絡してくれないのか…… )  その事実が、俺とは顔を合わせたくないという現れではないんだろうか。  様々な思いが脳裏を巡る。  それでも ── 会いたい。 「行く……俺も行く」  話ができなくてもいい。遠くからでいい。  一目だけでも、顔を見ることができれば。

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