85 / 123
─ 10
そのぬらぬらと濡れた手で、オレの、まだ誰も触れたことのない場所に触れる。オレがハルの口に放ったものを、周りに塗りたくっているような感覚がする。
そうしながら。
「俺、橘さんに似てるらしいですね。俺には、全く分からないけど」
大きくついた溜息に微かな憤りを感じる。
「あんたも、そう思ってるんだろ。時々、そういう眼でオレを見てた。再会した時も ── つっても、あんたにとっては初対面同然だろうけど、あん時も酷く驚いた顔をしてた。ファインダーを通しても、ずっと俺じゃない誰かを見ているような気がしていた」
「ハル ── っつう」
話をしながらも、ハルの手は止まらない。
痛みと共に、未知の場所に侵入してくる、ごつごつとした細長い何か。ハルの指だろう。ゆっくりと押し入ってくる。
「でも、俺は橘冬馬じゃない、藤名遥人だ。俺は、あの男の身代わりにはならない。今、シウさんの眼の前にいるのは、この俺だ」
意思の強い瞳が、オレを貫く。
冬馬が望むなら、繋がりたいと思ったあの頃。オレは秋穂の身代わりでもいいと思った。
でも、ハルは冬馬の代わりにはならない、と言う。
そして、オレ自身を望んでくれることに、オレは流される。
**
ゆっくりゆっくりと内側を掻き回されている。今までに経験したことのない感覚。
また、指が増やされる。一本で慣らされたそこに、また痛みが走る。
「ん……あ……ん」
でも、次第に痛み以外の別の感覚が呼び起こされる。痛みと共に背筋をゆっくりと昇ってくる何か。
二本の指で掻き回しながら、ハルは、一度放った後のそこをやんわりと握り、ゆるゆると扱き始める。
両方への刺激がまた未知の感覚を生み、萎えたはずのそこにまた熱が溜まっていく。
オレの口からは、自分でも押さえられない甘い吐息が漏れる。
ハルはオレの内の指を外さないまま、半勃ちのものからは手を離し、少しずつ上の方へ身体をずらしていく。
唇が腹を這い回り、大きな手が胸をまさぐる。紅く色づいた頂きを、カリカリと引っ掻いたり、摘まんだりを繰り返す。何処も彼処も敏感になってしまった身体は、刺激を受ける度に、全身に鳥肌が立つ。
これが、快感というものなのだろうか。
オレには、SEXの経験がない。冬馬以外には何も感じなかったからだ。他の誰かとしたいとも思わなかった。
でも、今ハルにされて分かることは、やっぱり冬馬としてきたことは、子どもの悪戯に過ぎなかったということ。
強引だが、愛されている感覚は、心をも熱くしていく。
真実彼にこの行為をされるのが嫌なら、オレの身体はこんな風に感じたりはしないのではないか。
まして、心を熱くするなんて……。
ともだちにシェアしよう!