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(シーツ、洗わなきゃな……)
オレは今、妙にすっきりとした気分だった。この二年間のどんよりとしたもので覆われていた胸の中が、空っぽになった。そんな気がする。
幼い頃からの冬馬への想いが、すぐに消える筈もない。
それでも。
「それにしても……身体中が痛い」
自分の身体を見下ろすと、余り陽を浴びていない白すぎる肌のあちこちに、紅い痣がある。
「アイツ、痕付けすぎ」
一旦萎えた筈のハルの復活は早く、あの後に二回行為に及んだ。二度目でオレが気を失わなかったら、もっと続けていたんだろうか。
「若さってヤツか?」
ふっと笑いが込み上げかけて、そこでハッと気づいたことがあった。
確か、一度目の終わりがきた時、もう夜が明けていた。
「って、ことは」
今この部屋の窓を覆っているのは、レースのカーテンのみ。UVカットで、目隠し効果のある物ではあるが……。
朝の爽やかな光の中で、あとの二回をしたことになる。
「わぁ~~」
オレは独り悶えた。
その時。
カチャとドアが開く音がした。
「シウさん、気がついたんですね」
シャワーを浴びていたのか、上半身裸で腰にバスタオルを巻いた姿で、ハルが部屋に入って来る。頭にもタオルを載せて、髪を拭きながら。
「ハル、帰ったんじゃなかったんだ」
ホッと吐息が零れる。自然に出てきたそれに内心自分でも驚いた。
「まさか、そんな状態のシウさん、独りにしておけません ── 俺のせいだし」
最後の方は、口の中でごにょごにょ言っているので聞き取り辛い。
「すみません、シャワー、勝手に使いました」
「うん」
「あと、暖房もつけさせて貰いました」
「うん」
そういえば、最中は暖房をつけていなかった。あんなに冷たい空気の中だったのに、オレたちは汗だくになっていた。
まだ拭き切れていない雫が伝う裸体を見て、今朝のことを思い出し、赤面する。
ハルはオレの前を通り過ぎて行く。ベッドとは反対の、ウォークインクローゼットの壁寄りにあるグランドピアノの前に立ち、そして、徐に蓋を開けた。
ポンポンポンと、人差し指で音を鳴らす。
「音、狂ってますね。どれくらい弾いてないんですか?」
「おまえ……ピアノ、やってたのか」
「母親の趣味で。小四になってすぐ辞めましたけど」
ハルとピアノが結びつかず、オレはかなり驚いた。でも、この風体でピアノというのは、格好良すぎじゃないのか。
ギャップ萌えしているオレとは裏腹に、ハルは眉間に皺を寄せ、何処か辛そうな表情をしている。
手を止め、鍵盤をじっと睨んでいる。
「どうした、ハル?」
「シウさん、きっと、覚えてないですよね ── シウさんが、カンナを辞める前のクリスマス・コンサートで、シウさんに意見した……生意気なガキのこと」
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