91 / 123
─ 16
「シウさんは、オジサンなんかじゃないよ。今まで見た誰より綺麗で、魅力的で。その……全く経験がないと思わなかったから」
「うん。オレ、その辺淡白だから。別にしたいとも思わないし、自分でもあんまりしないんだ。冬馬だけは別だけど……冬馬が望むなら……って」
( やべっ、口が滑った )
思った通り、ハルは顔をむうっとさせた。オレは慌てて、話題を変える。
「あ、そういうおまえは、ずいぶん手慣れてるじゃん」
最中にずっと思っていたが、今これを聞くのは野暮だったか。
「…………中学になって急に背が伸びて……そしたら、夏生の事務所の悪いお姉さんたちが、誘ってくるようになって……。でも……誰のことも好きだと思えなかった。誰かと付き合ったこともないし、付き合いたい奴もいなかった」
むうっしていた顔は次第に真剣さを帯びる。ぎゅっとオレの肩を掴んできて、熱っぽく見つめてくる。
「自分からしたいと思ったのも、訳が分からなくなるくらい熱くなったのも、あんたが初めてだ。そうなんだ……俺が子ども頃からずっと好きなのは、シウさんなんだって。シウさんを思い出した時に解ったんだ」
( 子どもの頃から、ずっと、ひとりを想っていた。オレと同じだ )
「ハル……」
オレの肩を掴んでいるハルの手の片方に、自分の手を重ねた。
「ハル、おまえ、今日この後用事あるか」
「いえ」
ふっと力が抜ける。
「じゃあ、もう少しここにいろよ。ほら、中にはいって。そのままじゃ、寒い」
ぽんぽんとオレの横を叩く。
「え、でも」
「いいから、いいから」
少し戸惑った様子を見せたが、「じゃあ」と言って、腰に巻いたタオルを取った。
「えっ」
一瞬オレは固まったが、バスタオルの下はボクサーパンツだった。
ハルがまたオレの顔を読み取る。
「流石に、下は履いてますよ。シャワーの後にスラックスはやだったんで、履かなかっただけ」
ハルはオレが示した隣に潜り込んでくる。
「シウさん、真っ赤。可愛い」
「可愛い、言うな」
オレはぷいっと、ハルに背を向けた。すると、ハルはぴったりとオレの背に身体を寄せ、手を前に回す。
「シウさん……次は、優しくします……」
髪に唇をうずめながら、甘く囁く。
( 次?次があるのか? )
そう聞き返すのも恥ずかしく、オレは答えなかった。
「今日はそのまましちゃったから。次はちゃんとコンドームもローションも用意して……」
「え…………」
さっきの囁きと同じくらい甘い声で、何だか妙なことを言っている。
「男同士でも、コンドームとか使うんだ?ローションて?」
ぷはっと、ハルが笑う。
ともだちにシェアしよう!