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「シウさんが悪いんですよっ」
ハルもバンッとテーブルを打って立ち上がる。
「パソコンディスクの上になんか置いとくからぁ。それに俺の写真じゃないですか、俺、見たっていいですよねっ」
「いや、ダメでしょ」
「── ハイハイ、みんな席に着いて」
顔を突き合わせてわあわあ言っているオレたちの間を、夏生が手で遮る。穏やかに微笑んでいるのに、有無を言わさない威圧感。
「はい」
オレたちは同時に返事をし、同時にソファーに腰を下ろした。
「ハル、キャラ崩れてるよ」
夏生がくすっと笑うと、ハルはぶすっとしてそっぽを向いた。
「ハルはねぇ」
と、オレの顔を見て話しだす。
「甘さのないクールさとか、ストイックさが売りなんだけど、一年くらい前から甘さが加わるようになったんだよ。ハルを撮るカメラマンが皆言う、凄く色気を感じる時があるって。撮影の時にいったい何を考えてるんだろうねぇ」
意味深に笑む。何もかも見透かしているような。
「でも、それでいいんじゃないかな。ハルもそろそろ、大人の色気を感じさせるようなものを撮っても。今回の写真集、そんな写真も入れたい。それを、詩雨に撮って欲しいんだ」
( なんだ、それ )
オレがハルを撮ったら、お互いだだ漏れ過ぎやしないか。糖度二百パーセントだ。
オレは顔に熱が溜まっていくのを感じた。
「でも」
それは、もし撮れればの話。
テーブルの上で、自分の手をぎゅっと握る。
「怖いんだ。また、上手くいかなかったらって、思うと。ハルにも、事務所にも、また迷惑かけるだろ。それが嫌なんだ」
「大丈夫ですよ、シウさんは」
握りすぎて白くなった甲の上に、ハルの大きくて温かな手が重なる。
「ハル……」
「大丈夫。もし、駄目でも、何度でもやり直しましょう」
ハルの声を聞きながら、彼の手の内で、強張りが溶けていく。その言葉と、その手の力強さが「大丈夫なんだ」と思わせてくれる。
夏生に視線を送る。
彼はふうっと溜息をつく。
「いつまでも、待ちますよ。どうせ、ハルに何言ったって、意志は曲げないから」
「わかった。この依頼、引き受ける」
**
「わあ、きれいだぁ」
オレはほおと感嘆の吐息を漏らす。
「お城から眺めてもすごく良かったけど、近くで見てもいいな。太陽の光が水面に反射して、キラキラしてる」
カメラを構え、その美しい風景を切り取る。
オレたちは今、パリ近郊の街アンジェで、メーヌ川の川辺を歩いている。少し前には、アンジェ城から、メーヌ川の周辺の街並みを一望していた。
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