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After story ─ 1

☆☆ 約束  ☆☆  二つのフルートグラスには、薄い金色のシャンパン。  細かい泡がキラキラと輝きながら、立ち上っている。  ローテーブルを挟んで向かい合い、顔がつきそうなくらいに近づく。  合わせたグラスが、シャンと綺麗な音を立てた。 「おめでとうございます。シウさん」  先に遙人(はると)がその言葉を口にする。 「何言ってるんだ。おまえの写真集じゃないか。おめでとう、ハル」 「ありがとうございます」  十月の初め。  漸く二冊目の『ハル』の写真集が完成し、あとは発売を待つばかりになった。  今日は桜宮(さくらのみや)モデルエージェンシー近くのカフェを貸し切っての、内輪の打ち上げ。解散後は、遙人とふたり、タクシーでオレの事務所兼自宅へ。  やや足に酔いがまわっていたオレを、三階の自室まで遙人が支えてくれた。  十月とはいえ、まだ日中は暑さがぶり返すこともあり、締め切った室内は暑く、すぐに冷房を入れた。  アルコールを呷った身体は体温が上がって汗ばんでいたので、順番にシャワーを浴びる。  オレの後に遙人。  互いの家を行き来し始めた頃。オレの家に来た時は「お先にどうぞ」と遙人に先を勧めていたが、必ず「シウさんお先に」と強引に押し込められてしまっていた。そういうわけで、最近は何も言わずにオレが先。  Tシャツにハーフパンツのラフな格好に着替え、遙人が出て来るまで、ちょっとしたつまみとシャンパンを用意する。  夏用のラグの上の、ローテーブルに載せる。  そこで、ふと。  テーブルの向こうにある、黒いグランドピアノが眼に入る。 ( 今日こそ、ぜったいに…… )   オレはそのグランドピアノに誓い、グッと拳を握る。 **  『春ノクルオト』  遙人に贈る曲を完成させたのは、今年の一月。  改めて考えると小っ恥ずかしいが。  オレはまだ遙人に言葉にして、オレの気持ちを伝えていない。  遙人を誰よりも好きだという気持ち。  遙人は、ずっとオレの音が好きだと言ってくれた。だからオレは、オレの音を遙人の為だけに贈りたかった。  それがこの曲を作った理由。  そして、それは遙人の前で演奏し、それから── オレの気持ちを言葉にして、遙人に伝える。  曲の完成後、写真集制作の依頼を受け、なんだかんだと忙しく、夏が過ぎてもその機会は巡ってこなかった。  そうなると、もう曲を贈ってからじゃなくてもいいんじゃないか。というか、そもそも言葉にする必要ももうないんじゃないだろうか。  遙人にはもう伝わっているはず。  そんな考えが何度も頭に浮かんだ。  しかし、その度に、いや、やっぱりこれはけじめだ……と思い直す。  三十過ぎの男にしては少々気持ち悪い乙女な発想にオレは、自分で思うよりもずっと固執しているらしい。

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