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オレ自身には、何の関わりもない筈の男。
秋穂の部屋の前で、見かけたくらいの。
それなのに。
オレの ── オレたちの人生の転機には、必ずアイツの影がある。
最初は、そう、この日だ。
オレたち三人は、また元の立ち位置に戻った。これまでの数か月が、まるでなかったかのように。
クリスマスパーティーのメイン会場で再会したオレたちは、暫くして人酔いをした秋穂を連れ、別の小ホールへと移動した。
冬馬は彼の為に飲み物を取りに行くなど、甲斐甲斐しく世話を焼く。
オレは、結局こういう場面を見てなければならない。胸のわだかまりも解けず、更に切なさが降り積もる。
それを遣り過ごす為に、オレはまたバカを言う。
そこへ、アイツの登場だ。とりまき数人を連れて。
── 石蕗壱也。
冬馬との会話で、秋穂の義兄だということが分かる。そして、秋穂との間にただならぬ何かがあり、それを冬馬が知っているということも。
にこやかに笑いながら、めちゃくちゃ熱くなっている冬馬。こんな冬馬を見るのは、初めてだ。
このいざこざで秋穂は気を失う。この時の冬馬の酷く後悔したような顔。見てられない。
冬馬は、秋穂を横抱きにし、休憩室として解放されている客室へと運んだ。
大切な物を扱うように。
あんなふうにして、初めて出逢った時にも、秋穂を運んだのだろうか。
独りぼんやりとソファーに座っていると、秋穂のことで熱くなる冬馬の顔や、秋穂を抱き上げる冬馬の姿が、何度も浮かんでくる。
その度に、ため息が零れる。
( これは……かなり、辛いなぁ…… )
切なさに沈む。視線もだんだんと下に下がり、自分の足許へ。
「し~うくん」
遠くから、能天気そうな声。
顔を上げると、天音がこちらに向かって歩いて来る。暗い気持ちを振り切って、オレは立ち上がった。
クリスマスパーティーの催しとして行われた、カンナ交響楽団のコンサートを終え、天音と朱音がオレを探して、パーティー会場へと訪れた。
そして、ずっと秋穂の傍にいるだろうと思われた冬馬も、何故かここに戻って来た。
何処か様子が、おかしかった。
( 自覚……出てきたって、感じか……? )
これは、ただの感。
でも。
自分でも知らずに押し殺してきたその想いに、冬馬が気がついたのだと、オレはこの時感じ取ったんだ。
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オレはなんで、こんなに必死で走っているんだろう。
冬馬が秋穂を抱き上げ、会場を去った後、壱也のとりまきの1人が、それを追ったこと。それから、ここが石蕗リゾートのホテルであること。
それらを天音に聞かされると、冬馬は顔色を変え、すぐに引き返す。
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