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第5話
「…ダメだよ、陸…」
手を伸ばせば触れられる距離で、翔月が胸に手を当てて苦しそうに呻く。
「どうして?あの時、翔月の方から好きだって言ってくれたじゃん。あの言葉は、嘘だった?」
「違うっ…!」
俺の言葉に、小さく叫んで。
でも、込み上げる思いを飲み下すように、ぎゅっと唇を噛む。
「嘘なんかじゃないっ…嘘なんかじゃ…」
「だったらっ…」
「だけど…いくら血が繋がってなくっても…戸籍上は兄弟なんだから…」
「だったら、どうしてっ…あの時、俺を抱いたのっ…!?」
最初から、わかってたはずだ。
俺たちが兄弟だってこと。
それでも、止められなかった想いがあるから。
あの日、俺に消えない傷痕を残したんじゃないの…?
「俺は、嬉しかったっ…ずっとずっと、翔月が好きでっ…でも、絶対叶わないって思ってたからっ…翔月が同じ気持ちでいてくれたこと、嬉しかったのにっ…!」
最後にあんたがくれた言葉が、一瞬鮮やかに色付いた俺の世界の全てを、消してしまった。
「ごめん、陸…」
翔月の声は、震えていた。
「…謝るくらいなら、連れて逃げて欲しかった」
自分の声は、自分で聞いたこともないほど低くて。
怒りだか哀しみだかわからない、ぐちゃぐちゃの感情で、身体が震える。
「…出来るわけ、ないだろ…」
その時、翔月の瞳から真珠のような美しい涙の粒が零れ落ちた。
「陸の未来を歪めるようなことを…出来るはず、ない…」
「…っ、翔月っ!」
考える時間すら、なく。
脊髄反射で、俺より少しだけ大きな身体を引き寄せて、抱きしめた。
「ダメっ…陸っ…!」
抗おうとする体を、今出来る精一杯の力で強く抱き込む。
「ねぇ…俺、二十歳になったんだよ?」
もう、子どもじゃない。
自分の道は、自分で選び取る。
「だから、俺の未来が歪むかどうかなんて、翔月が決めることじゃない」
俺にとっては、翔月がいない未来の方が、ずっとずっと歪んでいるから。
だから。
「俺は俺だけの責任で、ずっと翔月の傍にいる」
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