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第3話
「あっ、国語の教科書忘れた……」
「マジ?」
「最悪……」
「じゃあ、こっち来れば?」
「だな」
授業が始まる前に博人が机の中をゴソゴソしだしたと思ったら、忘れ物をしているという落ち。運良く二人の席が隣だったこともあり、博人は自分の机を音を立てて近づけて来ると悠哉の机とくっつけた。
それとほぼ同時にチャイムが鳴り、国語の谷口先生が教室へと入ってくる。
「おい、そこ。くっつきすぎだろ⁉」
「悪い、先生。教科書忘れた」
「でっ、山本に見せてもらってると?」
「ご名答」
「ご名答じゃない。忘れ物に印つけとくからな」
「ワザとじゃないのに……」
「当たり前だ。ワザとだったら許さん!」
「おー、こわっ。これからは気を付けます」
「今度忘れたら、監督に千本ノックお願いしとくからな」
「うっわ、勘弁してー」
谷口先生は野球部の顧問ということもあり、博人とこういうやり取りを結構している。二人の会話を聞きながら教室中が笑いに包まれたと思えば、すぐスイッチを切り替えて授業へと持っていくところは、さすがだなって思うところだ。
悠哉は博人との机の間に教科書の背の部分を置いて広げる。読んでいく部分を目で追いながらふと視線を移すと、眠気が吹っ飛んでいなかったのか、机に乗せた腕に頭を預けて目を閉じている博人の姿を見つけた。
寝てんじゃん……
思わずクスリと笑ってしまった口元を手の甲で隠しながら、何度も眠っている姿を盗み見してしまう。
長い睫毛……
寝顔までイケてるって、反則だろ……
ちょっとくらいイケてないところがあってもいいのに……
なんて、心の中で悪態をついてみるけど、気持ち良さそうに眠っている姿を見ていたら、何かもうどうでもよくなってきた。ここは、思う存分寝ている博人を楽しむことにしよう。
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