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第2話

「転校生の美咲君だ。県外から来たという事で、この地域の事もよくわからないと思うから是非教えてあげて欲しい」 「…よろしくおねがいします」 人生初の遅刻を悟ったのが40分前。全力疾走真っ只中に起きた惨劇が20分前。 そして今、そんな僕を荷台に乗せて送ってくれた彼が、先生の隣でぺこりと頭を下げている。 ……こんな王道があってたまるか。 それも主人公が咥えていたのは苺ジャムの食パンではなく辛口レトルトカレーだ。 「え…何あれ茶色い」 「うんk…いや違うよなまさかな」 「なんかクサいんだけど…」 「カレーじゃね?」 「なんでカレーつけて学校来てんだよ…」 ほらほら、言われてんじゃん。この先の学校生活ヤバいよキミ。リスタート初日から白いシャツに立派な茶色い液体染みちゃってるよ。 「席は…とりあえず一番後ろで。林、隣の自習室から机持ってきてくれ」 県外からの転校生なんて、普通だったらその話題で持ちきりだよ。間違いなく人気者だよ。男目線だから確証はないけど、顔だって整ってるし背も高め。 よっぽど性格が最悪じゃなければモテ街道まっしぐらだったのにさ。 「おい林」 たまたま寝坊してカレー吸いながら走ってた僕と激突するっていうイレギュラーが起きたばかりに、キミはとんでもない十字架を背負わされた状態でこの学校へやって来てしまった。 「はーやーし」 「ぅおあいッハイ!」 顔を上げると、さっきまで教卓で長い腕を見せつけるみたいに両端を掴んでいた先生は、すぐ目の前まで迫っていた。 そう。僕は先生からの信頼も厚い現・生徒会長だ。 だからこそ絶対に遅刻は許されなかった。 今もきっと先生は、右も左も分からない美咲少年を任せられるのは僕しかいないという絶対的な信頼のもと、彼を僕の隣に座らせようとしている。 とても名誉な事だ。この先に控える高校受験も問題さえ起こさなければ推薦で余裕なんじゃないかと甘えた考えすら持っている。 が、今回だけは勘弁してほしかった。 「……持ってきます」 なるべく俯いて、こちらへ向かってくる美咲少年に僕だとバレないよう、慎重に。 「あれ、もしかしてさっきのわぎゃぼばぶ?」 「ナンデスカソレ、ナニカノジュモンデスカ」 ほらバレたよクソ野郎。だーれがわぎゃぼばぶだ。自転車に撥ねられたら誰だってこの世の終わりみたいな叫び声になるだろうが。 「一限は移動教室だから、隣の林に着いて行けよ」 「はーい」 隣の林、朝から全身が痛いので保健室で休んでもよろしいでしょうか。 嘘じゃないよ、だってコイツに思い切り自転車をぶつけられたんだもん。 「ハヤシなのにカレー……」 「ダカラナニイッテンノ」 前方不注意の暴走自転車と、ちょっと服にシミをつけちゃっただけの僕。どちらの方が悪いかなんて誰でも理解出来るのに、コイツは一向に謝ろうとしない。 あ、ワリ…は謝罪のうちに入らないからな。だから僕も謝ってあげないんだからな。 「かいちょー、俺ら先に行くね?」 「うん!僕は案内も兼ねて少し遠回りしていく事にするよ」 「りょうかーい」 続々と生徒は教室をあとにし、最終的に僕と美咲少年2人だけになった。 「…絶対お前だよね?」 「あーもう!うるさいな!そうだよ僕だよ!ママが居ない日に限ってパパまで早出で寝坊して走っていたら突然キミがぶつかってきて今も全身が痛いけど授業に遅れをとりたくなくて我慢してこれから化学室に向かおうとしている健気で頑張り屋の僕が、キミの前の学校のまんまの制服にレトルトカレーをぶちまけた張本人だよ!!」 「わ、滑舌すごいね」 「そこかよ!!」 ワンブレスで行けるところまで行ってやった。 面白そうに笑っているけどキミは既にこの教室で異様な臭いを放つ奇妙な転校生というハンデを負ったマイナススタートの残念君なんだからね?わかっているのかい。 このまま放っておきたい気持ちは山々だが、慈悲深い僕は特別にキミを助けてあげなくもないよ。 別に罪悪感とかじゃない。罪滅ぼしになれば…とか思ってない。ただ、初めての学校で誰1人として知り合いもいない中、あんまりにもあんまりすぎるスタートを切ってしまった美咲少年を哀れんで仕方なく持ちかける提案だ。 別に嫌ならそのままカレーをつけた制服で今日一日生活すればいいさ。 「…ジャージ登校の日、忘れてもいいように予備のシャツ持ってるけど……使う?」 「マジで?流石にくせーし助かる」 くせーとか言うな、辛口カレーに謝れ。 まだ時間には余裕があったので、別に僕としてはトイレにでも寄って着替えてくれればいいと思っていたのだが、どうやら美咲少年にそんな考えは無かったらしい。 べっとりとカレーが付着したシャツのボタンを器用に片手で外しきると、はらりと床に落とした。

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