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第2話
しかしながら、弓月は隣で渋い飴を舐める竜ヶ崎を危惧した時期があったと回顧する。S校でも一目を置かれている竜ヶ崎に、威厳が損なわれること——それは竜ヶ崎を侮った奴らの報復。しかもS校内外で。
だが、そんな心配は杞憂だと思わせるほど、竜ヶ崎の強さは絶対的なものだった。
外見だけはそこらへんに転がるヤンキーと何ら変わりない竜ヶ崎の隣を歩き、弓月の髪を乱雑の掻き乱す。このような扱いを弓月以外で竜ヶ崎がしているところを見たことがない。周りが畏怖の念を抱き、竜ヶ崎に近寄らない今、弓月の扱いは幼馴染みである特権だ。
その特権も、学校に着いてしまえば存在しないも同然になる。竜ヶ崎とは別クラスで、放課後までほとんど接点がないのだ。
弓月は竜ヶ崎と別れると、ただの一般生徒に成り下がる。今年から共学に変わったこともあり、男子の不良行為は鳴りを潜め、去年まで暴れていた連中はまるで借りてきた猫のようだ。
つまるところ、女子の効果は絶大だということだ。そんな環境の変化で安寧とも呼べる授業中は、弓月を眠りへと誘ってくる。
「三浦ー、寝るなら廊下で立っとけー」
教員の間の抜けた声で居眠りから起こされる。
「うーす」と返事して席を立つ。去年までの癖が抜けず、男子校時代の感覚で教室から出た。
「不良ぶってるくせに、そこはいうこと聞くんか」と女子からの陰口が聞こえてきたが、弓月たちの男子校では、これが「普通」だった。
(シロがいないと授業も何もかもつまんない……)
廊下に立っておくだけもつまらないが、女子が入ってきたことで授業を抜ければ欠席扱いをきちんとするようになり、下手に行動できない。面倒くさくなったものだと嘆息を吐いて辺りを見回すと、向いの校舎に見覚えしかない後ろ姿が目に飛び込んできた。
(シロじゃん、授業サボって何——ん?)
竜ヶ崎の隣に女も一緒に歩いている。
「はぁ……またか」
竜ヶ崎は先程の興奮を一気に鎮火させ、溜め息をこぼした。あれ以上視線を追いかけても、面白いことは何もない。
(数少ない女を食い散らかして……。女癖の悪さは噂通りだな)
弓月はひとりごちる。「これじゃ、男じゃなくて女に刺される方が先かも」。
竜ヶ崎の行く先を案じては、これもまた嘆息を溢す。「あの竜ヶ崎」が女にやられたとあれば、S校の内部も絡んでくる輩は増えるだろうし、何より、他校から侮辱されることは容易に想像できる。
べっこう飴を噛み砕く姿でさえサマになる竜ヶ崎に、女ごときで躓いて欲しくはない。
結局弓月はいても立ってもいられず、女としけ込んだ竜ヶ崎を追った。空き教室を虱潰しに覗く。
そして、「お前、もう飽きたわ」という聞き慣れた声が弓月のいる場所から微かに耳に届いた。
その後すぐに弓月の進行方向とは逆の教室から、化粧の濃いアーティスティック(暴言)な女子が駆けてくる。弓月が立ち止まり、通り過ぎていくのを見ても気にしていないあたり、事の顛末が何となく見えてきた。
女子は目に涙をたくさん溜めて、それを流すまいと唇を噛み締めていた。化粧が崩れるからか、それとも、竜ヶ崎に悲しいと感じてやるものか、という反抗心からなのか。
「あの……」通り過ぎた女子を振り返って呼び止めた。
(シロが刺されないように、こっちのフォローが先だな)
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