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第4話
放課後、いつものように竜ヶ崎と帰路につく。今日は来客の一人も来なかったので、糖分を取ることなく他愛ない会話が続く。
そこで、弓月は数日寝かせておいたあの話を持ち出した。
「あ、そう言えば授業サボるのはいいし、女の子と遊ぶのはいいんだけどさぁ。女の子を傷付けるような遊び方は控えなよー?」
弓月の急な話題投下に、竜ヶ崎は歩みを止める。
「……それは女を庇ってんのか」
「別に深い意味はないけど、初めて修羅場を聞いちゃったもんだからさぁ」
他意のない口調を貫きながら、「女の子を敵に回すと、男より厄介だと思っただけ」と弓月も歩みを止める。
「シロが女遊び酷いせいで、俺が女の子と付き合うより、シロのフォローでてんやわんやしそうなんだけど!」
すると、竜ヶ崎は以前見せた柔和な笑みを溢して「ゆづは俺のせいで女と付き合う暇がなさそうだな」と弓月の黒髪をくしゃくしゃに撫でた。
「他人事みたいに言ってますけど、共学になってまだ半年ですよ? 手出すの早くない?」
「俺からなんて一度もない。だから、俺のせいじゃない」
「まぁた屁理屈言ってー。そんな天邪鬼野郎は、これから俺に面倒かけるかもしれないから、今からおんぶの刑に処す!」
そう言って、弓月は竜ヶ崎の返答を待たずして背中に飛び乗った。それが許されるのが「幼馴染み」の特権だ。存分に使わないと、いつその特権に効力がなくなるか分からない。
だが、弓月の心は不思議と穏やかだった。
(シロからは一度もないんだ。じゃあ、百合さんを飽きたって言ってたのは、他の理由があったんじゃなくて本当だったんだ)
弓月に飛び乗られた竜ヶ崎は、それを甘受する。これでは「狂犬」と謳われる竜ヶ崎も形無しだ。
「……ゆづ、お前今日甘いモンでも食ったか?」
「食べてないよー。でも、甘いものは貰った。流石、甘党のシロ!」
「……」
「飴、あるか」竜ヶ崎は明らかなトーンダウンをさせていう。それには柚月も若干背筋に冷や汗を流しながら、鞄から竜ヶ崎お気に入りのべっこう飴を取り出す。
「俺、今手が空いてないから口に入れて」
言われるがままに、竜ヶ崎の口へ飴を運ぶ——竜ヶ崎は柚月の指先全体を口内に入れ、飴を噛んだ。反射で指を引き抜いた弓月の指先は、飴が噛み砕かれる際に傷を作り、所々で切創 を受傷していた。
生唾を飲み込んで、指を噛まれるかと思った恐怖も呑み込む。
「悪りぃ。飴だけ噛んだつもりが、一緒に怪我させてしまったな」と言いながら、再度指を差し出すように言われぎこちなく差し出すと、今度は患部から流れる少量の血を舐めとった。
その間、弓月は幼馴染みである自身でさえも、「狂犬」と戯れることは難しいのだと思い知らされた。
(——一瞬、本当に喰われたかと思った)
「うん。これで俺好みの甘ぇ匂いだ」
竜ヶ崎には、甘い匂いでも気に入らない匂いは機嫌を損ねるという地雷を持っていることを、弓月は学習した。
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