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第8話
竜ヶ崎に連れられたのは、男子校時代から立ち入り禁止の屋上だった。
「シロってもしかして、鍵を持ってたりとか、鍵を管理する先生とズブズブの関係とか?」と恐る恐る聞く弓月。
「ハハッ、漫画の読みすぎ」
「だ、だって、屋上なんてマジの不良じゃん!」
「あ? 俺、普通にイイ子じゃねぇけど」
「それに、屋上のドアだって、鍵ぶっ壊して勝手に入ってるだけだし」と弓月の肩を抱きながら屋上へと足を踏み入れる。
「わー……ワイルドでございますねぇ……」
「ここが一番邪魔が入りにくいんだよ。此処は教師の巡回もないし、誰も使わないからか設計上、どこの教室からも死角だし」
「ね、ねぇ。まさかだけど、こんなところにも女の子連れ込んで——ない、よな?」
「んなわけねぇだろ。俺、青姦する趣味はねぇ」
間を開けずに否定する竜ヶ崎に、じんわりと全身に安堵感が包み込む。
「それより、あ」壁にもたれかかる竜ヶ崎が口だけ開けて何かを待っている。
「お昼って、飴だけでいいの?」
「お前の飴で糖分補給しときゃ十分だ」
どうやら昼にゆっくりと落ち着きたかったらしく、いつものべっこう飴を口に入れて間もなく竜ヶ崎は眠りに落ちた。落ち着いた空気の条件に弓月が居ることみたいで、口角が緩く上がってしまった。
翌日も菊池の誘いを断り、今度は弓月が竜ヶ崎の迎えに他クラスへ赴く。
「シロー。お迎えに来たよー」
弓月は通常運転の呼びかけのつもりだった。しかし、竜ヶ崎のクラスメイトも弓月のクラス同様に場が凍りついた。裏番濃厚説を自ら提唱したも同然の行動だと気付いた頃には、時既に遅しである。
「は、早く来てもらっていいかな……早くっ」
一刻もこの場から立ち去りたい気持ちばかりが急く。
「はいはい。仰せのままに」
くつくつと喉で笑いを噛み殺すようににんまり笑う竜ヶ崎。どうやら竜ヶ崎も噂を知っているらしい。
「ちょっと! わざと言ってんでしょ!」
「悪ぃって。俺が迎えに行った時と同じように静まり返るから、面白くて」と言いながら弓月の黒髪をガシガシと触る。
「大体、俺この学校の番長になった覚えも言われた覚えもねぇんだけど」
「くだらねぇ噂気にする暇があったら、飴くれ、飴」と階段を登る途中で口を開ける。
「もう自分で食べなよ! 手空いてるでしょ!」
ポケットから取り出したべっこう飴を竜ヶ崎の手を掴んで渡す。これに不服そうな竜ヶ崎は軽く舌打ちをする。
「あ、今俺に舌打ちしたね。俺はシロのお世話係じゃないんだから自分で食えってんだ!」と言いつつも、竜ヶ崎の掌から飴を取り返し、包みを開ける。
それに満足した竜ヶ崎は弓月の肩を抱く。なんだかんだ高校生まで一緒にいる二人なのだ、仲の良さは確固たるものであった。
「最近は何でもない時についつい食っちまうなぁ」
そう、竜ヶ崎は戦闘以外でも飴を欲しがるようになり、弓月の鞄の中にある飴も残り僅かだ。
「無くなったら別の種類のべっこう飴を探してみようかな」
「いや、これでいい」
「ずっと同じで飽きないの?」
「残念ながら、俺に飽きはあんまり無い」
屋上に着いて黄昏れる竜ヶ崎は、弓月の膝を枕にして目を瞑る。寝返りで弓月の股間近くに顔を埋める。
このくらいで羞恥心を感じていては弓月の童貞がバレる。弓月は努めて平静を装い話を続けた。「えー? せめてメーカー変えて形だけでも——」。
「ゆづ。俺はこれがいい」
そして、竜ヶ崎は弓月の股間付近に顔を埋めたまま、腰に腕も回してホールドする。
(え、え? これは動揺しても大丈夫なヤツ?! 女遊びの酷いシロにとってはこのくらい朝飯前?!)
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