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第37話

 放課後、竜ヶ崎の隣を歩きながら、しおらしく三浦の負傷を告げる竜ヶ崎を初めて目の当たりにした。  三浦を陰から守るには限界を感じていた桜木は、一度だけ竜ヶ崎と接触を図っていただけに、竜ヶ崎に向けた怒声は跳ね返って自身へと突き刺さる。「アンタ。今まで負けなしじゃ無かったのかよ。この間まで三浦先輩を傷一つ付けてこなかったのに、なんで今回10針以上も縫う大怪我を負わせてんだよ!」。 (僕もその場にいれば三浦先輩が怪我をせずに済んだかもしれないのに……っ)  今回は人数が多く三浦を庇うまでに時間がかかり過ぎたらしいが、あの惨状を一人でやったことを鑑みると、やはり竜ヶ崎の天性の強さが窺える。——負けてしまうことなど本人は1ミリたりとも考えていないところが、またカリスマ的に強い。  一度目の接触の時にも、既に竜ヶ崎の来客は伸びており、三浦の裏番を吹聴している真っ最中だったことは記憶に新しい。さらに驚くことに、既に桜木の気配を察知していて尚、スルーしていたというのだから恐ろしい話だ。  オフレコだが、以前から二人を尾けていた時も竜ヶ崎はこちらを警戒していたが、同一人物であることまでは特定できなかったのだろう。それにしても、竜ヶ崎の察知能力には舌を巻ずにはいられない。  三浦が医療用ネットを被って学校へ登校してきた日、数年ぶりに正面から三浦を拝んだ。陰から見守ると誓ってからは、初めての対面である。三浦の教室へ赴き、彼を呼び出す。  初めまして、と言うにはくすぐったく感じる桜木。実は三浦とは二度目の再会であるが、三浦が全く覚えていないので致し方ない。    それもそのはずである。人当たり良く笑いかける三浦に話しかける男は、本来はノルウェーの血が混じった碧眼金髪ハーフだ。黒染めとカラーコンタクトを駆使して三浦の真似事をしているだけの、ただのヤンチャなハーフである。そんな桜木は三浦を敬愛してやまないのだ。  御尊顔を拝謁できる気分の桜木は浮足立って三浦と接触するが、浮かない顔をする三浦。幸いにも、桜木は三浦と竜ヶ崎に一悶着あったことを瞬時に思い出す。    本来ならば、当人以外が入り込む余地はない。  そう思っていても、相手は敬愛する三浦だ。話を聞かずにはいられなかった。しかし、竜ヶ崎本人ではなく、知人を寄越されたと感じた三浦は、静かに涙した。  その姿は副会長となった今でも脳裏に焼き付いている。  三浦からぽつぽつと溢される本音は、竜ヶ崎に向けた憧れと、やはり好意。この二人なら、いずれその感情へと昇華すると思っていたが、実際に目の当たりにすると、胸に鉛が重たく沈み込む。  だが、竜ヶ崎の知人と知るや否や、懐のチャック全開で言葉を発する姿に、以前の三浦と何ら変わりない姿で心底安心したのも事実だった。偶像崇拝だったらどうしようなど、杞憂だったのだ。  ——自分の持てる力で竜ヶ崎を守らんとする姿は、今も健在。  桜木は竜ヶ崎の停学を伝え、それ故近くで三浦を見張る人間がいないため、桜木自身はその間の代役でしかないと告げた。  期間限定の、竜ヶ崎の代役。  期間が終われば、桜木は用無しだ。そこまで思案してしまうと、三浦に傾けていた耳が急激に遠くなるようだった。  だが、この時のための黒染めであり、カラコンだ。  「三浦先輩。全く連絡を寄越さない竜ヶ崎さんには、僕から電話をかけます。それで出たら、三浦先輩に渡しますね」とばちんとウィンクをしてみせた。 (どこまでも三浦先輩に寄せて良かった)

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