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第44話【大学生編】——変遷の波——
三浦弓月は膨れっ面で出されたビーフサンドを口に入れる。
今日は今年大学へ進学した桜木の祝いの意味も込めて、K大のカフェで落ち合うことになっているのだが、隣に竜ヶ崎はおらず、近村大輔という男がバッグの私物整理を行なっている。
使用済みのストローに始まり、完食した後の菓子、空きペットボトルに至るまで、いわゆるゴミの整理をしている。隠す様子も無い男は、満面の笑みでそれらをまたバッグに戻した。
弓月は近村の異常行動を横目に、ビーフサンドを頬張る。
大学生活も二年目に突入し、急に与えられた自由にようやく慣れてきた。
大学で出会った近村という竜ヶ崎と同様の大男と仲良くするほどには、キャンパスライフを充実させている。
だが、今弓月の隣に座るのは、竜ヶ崎に似た体格の近村である。
「三浦、竜ヶ崎がお前に連絡したのに返事がないって、僕のところに連絡寄越してきたんだけど。無視してんの?」
「んぁ? 飯食ってるから手が離せないとでも言っといて」
「ふーん、ま、もうすぐ着くってよ」
「皆の空きコマが四限だっていうからお昼我慢して待ってたのに、誰かさんがバイトを一コマだけ入れてて、それで遅れてたとしても俺は知らない」
「その割にはまだ集まってないのに、先に始めちゃってるよね、三浦」と近村は隣で頬杖を突いてこちらを見る。
「何言ってんの? 男子大学生がこんなもんで腹が膨れるわけないじゃん」
「それにしても、たった一コマだけ入るなんて、竜ヶ崎もマメだな。僕も入ってくれって言われるけど断るなー」
そう、近村が何でもないように話すが、竜ヶ崎はバイト先に塾講師を選んだのだ。此処、有名私大であるK大に小指が引っ掛かれば幸いだ、などと教員に散々心配されていた竜ヶ崎。
だが、いつの間にかK大を合格圏内にしただけでなく、もうワンランク上のA大までも合格圏内にしてしまった。
そして、そのA大から菊池と桜木が、授業後にこちらへ向かっている。二大学間で提携して研究したり、プロジェクトを組んだりと仲良くしているためか、最近できた複数あるA大の中のひとつのキャンパスはK大と距離が近い。
おかげで、K大とA大の学生は顔見知りになる機会も多く、菊池と近村が知り合いになったのも、弓月と竜ヶ崎の縁の延長線だった。
ビーフサンドを美味しく頂いた直後、カフェ入口付近が騒がしい。それは菊池の登場を知らせるものであることは、弓月と菊池は承知している。
近村も、騒ぎの元に視線をやらず、「菊池のお出ましかもな」と悠長に珈琲を啜る。
「ちょっと、あんた達のテリトリーなんだから、こっちに合図くらい送ってよ」
騒ぎの元が優雅に歩いてきた。しかし、弓月は生唾を飲み込んだ。近村も熱い珈琲をダイレクトに嚥下したらしく、噎せながら菊池にいう。「ちょっ、ド金髪……。一年経ってデビュー? 今?」。
一方で、弓月の視線の先は菊池ではない。
「桜木、君。だよね?」
「はい、お久しぶりです。一年ぶりくらいですね」
弓月らが座る円卓テーブル前に立つ男は、「桜木君」というにはあまりに違和感を感じるほど秀麗さを醸し出した、長身金髪碧眼の男がそこにいた。
そこへ丁度竜ヶ崎も合流したが、こちらを見つけるや否や「お前、誰だよ」と桜木を睨めつける次第だ。
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